「目指す将来像」を設定する~好き・嫌い分析
キャリア設計のはじめ方

第3回 「目指す将来像」を設定する~好き・嫌い分析

前回は、キャリア設計のための3つのステップを紹介しました。

キャリア設計を行なう上で、ステップ1の「目指す将来像」の設定は欠かせません。しかし、ここがたくさんの人の頭を悩ませるポイントでもあります。

「幼い頃に、医師に命を助けられました。それ以来、難病に苦しむ人々を救う医師を目指しています」――というような熱い志を持ち、将来像が既に明確な方は心配ないでしょう。

しかし、自分の生きるべき道が定まるほどの強烈な原体験を持っている人は、決して多くはありません。そのような場合、目指す将来像は、どのようにして設定すれば良いのでしょうか。

今回の記事では、「目指す将来像」や「やりたい仕事」を見つけるのに役立つ、「好き・嫌い分析」をご紹介したいと思います。

「好きなこと」を仕事にしていい

仕事は、世の中に数え切れないほど存在しています。「仕事図鑑」のような書籍に載っているだけでも数百の職業がありますし、新たな仕事をつくりだすことだって可能です。

私たちは、そのような無限ともいえる選択肢から仕事を選べるのです。それにもかかわらず、わざわざ「好きではないもの」を選ぶのは、あまりにも勿体ないことです。

また、多くの方は、大学を卒業してから約40年以上にわたり働き、人生の大半の時間をかけることになります。「好きなこと」を仕事にできるか否かは、人生の豊かさに直結することでしょう。
さらに、自分で選んだものが「好きなこと」であれば、長時間でも楽しく取り組むことができます。没頭し続けられれば、人よりも得意にもなれます。皆さんも部活や趣味、勉学などでも、そのような体験をしているのではないでしょうか。

そして、その道で一流になることができれば、社会に与える価値も高まり、比例して収入も高くなっていきます。つまり、少し長いスパンでとらえると、好きなことを仕事にしたほうが、精神的にも経済的にも、社会的にも得るものが大きくなるだろうということです。このことは、数多くのビジネスリーダーたちも、異口同音に語るところです。

「少し長いスパンで考えると、好きなことを仕事にしたほうが得るものが大きい」のイラスト

しかし、自分の好きなことを仕事に選んでよいと言われても、「そもそも自分が何を好きなのか分からない」という方も多いかもしれません。そのような方にぜひ試していただきたい方法が「好き・嫌い分析」です。

「好き・嫌い分析」の具体的な手順

それでは、「好き・嫌い分析」の具体的な手順を紹介していきます。普段は意識していなかった、自分の大切な価値観に気づく人もいるでしょう。また、自分に合っている意外な仕事を発見することもあります。

1. 「好きのエッセンス」を把握する

まずは、「好きのエッセンス」をつかむことからはじめていきます。

たとえば、自分が将棋を好きだったとします。だからと言って、「日本将棋連盟に勤めよう」といきなり決めつけてしまってはいけません。

笑い話のように聞こえるかもしれませんが、「服が好きだからアパレル企業に勤める」「花が好きだから花屋に勤める」と考えてしまう人は、けっして少なくないのです。

「好き・嫌い分析」では文字通り、まずは分析をします。将棋を好きな理由、魅力的なポイントを要素分解していくのです。

一口に将棋が好きだと言っても、その理由は人によってさまざまです。良い作戦を用意して実戦で試すことが楽しいのか、勝負のスリルが楽しいのか、頭がちぎれそうなほど考えることが楽しいのか、最新の研究を学ぶことが楽しいのか、などなど。愛棋家同士でも、将棋のどの要素が好きなのかは異なるでしょう。

さらに、一人旅、友人と語りあうこと、映画鑑賞、家庭教師のアルバイト、数学など、将棋以外の好きなことも、同様の手順で要素分解をしていきます。

このようにして分析していくと、共通項となる要素が浮かび上がってくるでしょう。もし、「よい作戦を用意して実戦で試すこと」「旅のプランを練ること」「相談ごとに対する解決策を考えること」「生徒の効果的な学習計画を考えること」といった要素があがっているのであれば、「作戦を考えること」が自分は好きなのかもしれません。

さらには、「生き方について友人と語り合うこと」「旅先で本を読んで将来について考えること」「人生に関する示唆が得られる映画を見ること」といった要素があがっているのであれば、「生き方について学ぶこと」が自分は好きなのかもしれません。

このようにして、共通項となる要素から、自分にとって大切な「好きのエッセンス」をつかんでいきます。分析が終わる頃には、数個の「好きのエッセンス」が抽出されているでしょう。

自分の持つ「好きのエッセンス」をつかんだら、普段の生活のなかで意識してみることも大切です。もし、違和感があれば修正するということを繰り返す中で、“腹落ち”できるものがつかめてくることでしょう。

2. 「やりたい仕事」や「目指す将来像」を考える

この「好きのエッセンス」が、仕事を選択する際や、目指す将来像を見つける際の軸となります。

もし、好きのエッセンスが、「困っている人を助けること」×「子供たちを育てること」であれば、教育格差の解決に関わる仕事を選択してもよいかもしれません。あるいは、教育格差をなくすNPOや会社を立ち上げることを、目指す将来像としてもよいでしょう。

このように、好きのエッセンスを掛け合わせることで、有望な選択肢が浮かび上がってきます。

「好きのエッセンス」を活用するメリット

好きのエッセンスを軸に、仕事を選択したり、目指す将来像を描くことは、以下のような点で優れています。

①好きの純度が高い仕事を見つけられる
たとえば、Aの仕事は、好きのエッセンスが1つしか含まれていなかったが、Bの仕事は3つが入っていたとすれば、Bの仕事を選ぶと良さそうだとわかります。また、好きのエッセンスを掛け合わせることで、好きの純度が非常に高い仕事を、新たにつくり出すことも可能でしょう。このように、好きのエッセンスを把握することで、好きの純度が高いことを仕事に選んだり、目指す将来像として考えたりできるようになるのです。

「"好きの純度"が高い仕事を選ぶ」のイラスト

②「現実解」を見つけやすくなる
可能性の幅が広がり、「現実解」を見つけやすくなるという点も、好きのエッセンスをつかむことの大きなメリットです。たとえば、将棋が好きだけど、年齢や才能によってプロ棋士になるというキャリアを選べなかったとします。それでも、「よい作戦を立てること」が自分の好きのエッセンスだったのであれば、経営コンサルタントや経営企画、マーケティングなど、他の選択肢も見えてきます。このように、好きのエッセンスを軸に仕事を検討すると、可能性が広がるのです。

自分が好きなものであっても、収入が低すぎたり、身体能力的に難しかったりするなど、現実的に厳しい選択肢となっていることはあるでしょう。その際に、好きのエッセンスをつかんでおくことで、当初就きたいと思っていた仕事と同様の魅力を持つ、「現実解」として選択できる仕事を見つけやすくなるのです。幼い頃に抱くあこがれとしての夢とは異なる、「大人の夢」の見つけ方とも言えます。

「可能性の幅が広がり現実解を見つけやすくなる」のイラスト

目指す将来像は、ざっくり決めれば十分

目指す将来像を設定すると聞くと、25歳で○○をして、30歳で△△をして、40歳では××をする……といった具合で、詳細に計画をつくろうとする人もいます。

しかし、実際にはざっくりとした方向性が決まれば十分です。むしろ柔軟性をもたせたほうが、機能するでしょう。

「人々が楽しく活躍できる組織を増やしたい」、「中高生向けのキャリア教育にたずさわりたい」、「故郷の経済を活性化する会社をつくりたい」といったイメージでも大丈夫です。

登山で言えば、どの山に登るかが決まれば、いまは十分なのです。山に登る際、ふもとから山頂を見上げていても、頂上の詳細な様子は決してわかりません。登って近づく中で、最終的なゴールが徐々にクリアに見えてきます。また、山に登って時間が経てば天候も変わってしまいます。頂上に着いてから何をするのが最適なのかは、その時の状況によって変化するでしょう。

キャリアは数十年にもわたるものです。当然、社会情勢は変化しますし、新しいテクノロジーや新しい職業が登場することもあります。そのため、20年先、30年先のことを細かく決めても、あまり意味がないのです。肝心なのは、やるべきことに取り組めるように、目指すゴールの周辺でキャリアを積んでおくことなのです。

「ふもとから見上げているだけでは、山頂の様子はわからない」のイラスト

3. 「嫌いのエッセンス」を把握する

「嫌い」の分析についてもみていきましょう。嫌いなことについても、同様の分析を行なって、「嫌いのエッセンス」をつかみます。

「大量の暗記が嫌い」「上司にへつらった者勝ちのカルチャーが嫌い」「大勢の人の前で話すのが嫌い」など、どうしても嫌いなことが皆さんもあることでしょう。

どうしても嫌いなことが分かれば、避けるべき仕事や環境を判断できます。仮に、好きのエッセンスを満たす仕事だとしても、嫌いのエッセンスが含まれていれば避けるようにします。

仕事で大きなストレスを受けないため、短期間での離職を避けるためにも、この観点は非常に大切です。一般的によく知られている「3つの輪」の自己分析では、嫌いを避けるという観点が抜けてしまっています。しかし、心身ともに健全に働いていくうえでは、好きをつかむこと以上に重要と言えるでしょう。もちろん、何もかも嫌いとワガママばかりを言っていては駄目なのは前提となります。

このようにしてつかんだ、「好き・嫌いのエッセンス」をもとに、仕事を選んだり、目指す将来像を設定したりしていきます。自分でも想定していなかったような将来像や、取り組んでみたい仕事が見つかってくるかもしれません。ぜひ、試してみてください。

日記は自己分析に役立つ貴重なデータ

好き・嫌い分析を行う上で、お勧めしたいのは「日記(記録)」をつけることです。自分が日々どのようなことを楽しいと感じ、何を嫌いだと感じたのか、何に憤りを感じ、どんな人を助けたいと思ったのかを記録していくことは、自分の好き・嫌いを知る上で大変有効です。

この作業を続けていくと、自分の好き・嫌いに関する情報が膨大にたまります。1年ほど書きためた後で振り返ってみると、自分が何を好きで、何を嫌いなのかがクリアに分かるようになるでしょう。

自己分析は、日々少しずつゆっくりと行なうものです。就職活動の直前に、自分がやりたいことは何か、人生をかけて成すべきことは何か、と急に考えはじめても、納得いく答えはなかなか見つかりません。早い時期からキャリアと向き合い、ご自身の好き・嫌いや価値観をつかんで頂ければと思います。

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著者プロフィール
渡辺 秀和
CareerPod編集長
渡辺 秀和
コンコードエグゼクティブグループ|代表取締役CEO
戦略コンサル、外資系企業の幹部などへ1000人を越えるビジネスリーダーの転職を支援したキャリア設計の専門家。「日本ヘッドハンター大賞」初代MVP受賞者。 著書:『未来をつくるキャリアの授業』(東京大学でのキャリア設計の教科書に指定)

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