プライベートとの両立の鍵は「キャリアの自由度」
女性のキャリアデザイン論

第2回 プライベートとの両立の鍵は「キャリアの自由度」

前回は、充実した福利厚生や人事制度がある職場であっても、自分の望む仕事が続けられるか不確かなことについてお伝えしました。

出産、育児、パートナーの転勤、介護などのプライベートの状況によって働き続けることが困難になったり、あるいは自分の意思によって離職したいと思ったりすることもあるでしょう。このように見てみると、「ひとつの企業に勤め続けることを前提とする」――それ自体が、長い人生において、やや窮屈な考え方とも言えそうです。

今回は、仕事とプライベートを両立させるための「新しいキャリアデザイン」の考え方について解説します。

なぜ、彼女は想定外の悩みを乗り越えられたのか

どのようにすれば、ライフイベントとキャリアを両立できるのでしょうか。子育て中のある女性(仮称:小林さん)の事例を通して考えてみます。

小林さん(仮称)は、経理職として10年以上の経験を持つ30代の女性です。1年前に念願の第一子を出産し、産休・育休を取得しました。小林さんは、在職企業に復職する際、保育園のお迎えの時間に間に合わないため、時短勤務を選択しました。

時短勤務で年収は下がります。それでも、希望通りの育休も取ることができ、復職前は企業の福利厚生や人事制度に感謝こそあれ、不満はなかったといいます。

ところが、いざ復職してみると、以前は部下だった若い社員が昇格しており、その下で働くことになりました。復職した当初は、時短勤務だから仕方がないと自分に言い聞かせていました。しかし、自分の方が豊富な経験を持ち、スキルが高いにもかかわらず、その若い社員のサポート業務を行っている状況に、割り切れない気持ちが抑えきれなくなったそうです。

転職を検討しはじめた小林さんが、転職情報サイトで探しても、時短勤務可となっている条件の良い求人は見当たりません。幼い子供を育て、時短勤務が必須となる自分には転職が難しいのではないかと、小林さんは悩みました。

確かに、時短勤務可と記載されている求人は少ないです。しかし、優秀な即戦力人材だと評価すれば、勤務形態を柔軟に検討してくれる企業は数多くあります。人材育成に長い時間と多大なコストをかけるよりも、即戦力として活躍できる人材を採用する方が良いからです。

実際、経理分野に強い人材を求めていた企業へ、小林さんが時短勤務を前提で打診したところ、すぐに数社が採用に関心を持ってくれました。その結果、時短勤務でありながらも、なんと出産以前より年収が上がる好待遇で転職することができたのです。

「高いスキルがあると、さまざまな企業が好待遇で迎えてくれる」のイラスト

「キャリアの自由度」という観点

小林さんの事例からは、ふたつの大切なことが学べます。ひとつは、制度が整っている会社であっても、想定していなかったような出来事があり、勤務し続けるのが辛くなることもあるということ。もうひとつは、転職市場で評価されるスキルを身に着けておくと、他の企業がセーフティーネットとなってくれるということです。

このように、若いうちにスキルを身につけておき、いざというときには転職できる自由度を持つこと、いわば「自由度の高いキャリア」を形成しておくという視点はとても大切です。

自由度の高いキャリアがあれば、どこで、どのように働くかを主体的に選ぶ選択権を持つことができます。人生における不確実性に向き合う上で、とても役立つキャリア形成の方法だと言えるでしょう。

先ほどは女性の事例をご紹介しましたが、このキャリア形成法はもちろん男性にとっても有益です。男性も、親の介護で離職するケースや、育児のためにワークライフバランスの良い職場へ転職したいということもあるでしょう。また、現代では大企業に勤務していても、リストラにあったり、海外企業に買収されたりすることもあり得ます。不確実性の高い時代を生きている私たちにとって、「キャリアの自由度」はますます重要になっているのです。

「ひとつの会社に縛られない「自由度」がキャリア形成の鍵」のイラスト

キャリアの自由度をつくるのは「転職市場で評価されるスキル」

それでは自由度の高いキャリアは、どうすれば手に入れられるのでしょうか。

自由度の高さは、転職市場での評価によって決まります。転職市場においては、なんでもマルチに70点ずつ取れるような人材よりも、1つの分野でいいので100点、もっと言えば120点を取れるような、明確な売りとなるスキルを持つことが評価されます。

スキルの内容は、必ずしも小林さんのような経理職でなくても、問題ありません。人事やマーケティング、法務、広報などの職種はもちろん、経営コンサルタント、高い営業力なども明確な売りとなり得ます。

今や、豊富な経験や高い専門性を持った人材は、企業間で争奪戦となっています。従来の日系大企業では考えられないような高額の年収を提示する企業も珍しくありません。どの職種を経験しているかよりも、どの程度のことができるのかという深度が重要なのです。

「何でも少しずつできるよりも、尖った強みがあるほうが高い評価を受ける」のイラスト

「資格を取得する」という発想とは異なる

転職市場で評価されるスキルを身につけるという考え方は、「専門性を持つ」という意味では、資格を取得するという発想と似た側面があります。しかし、「資格を取得する」というキャリア形成法には、以下のようなデメリットもあるので注意が必要です。

第一に、選択肢の範囲が狭いという点です。仮に、資格取得を必須としてしまうと、自分の就きたい仕事とフィットする資格がなかった場合に困ってしまいます。一定程度の難度の試験でなければ、転職時に評価はされませんし、仮に難関資格に合格しても、好きではない仕事に就くのでは本末転倒です。

第二に、リスクを伴うという点です。一般的に転職市場では資格よりも、実務経験の方が高く評価される傾向があります。また、経験年数を重ねることで、その評価がより高くなっていきます。一方、資格試験は合格しない限り、スキルがあると認めてもらえません。つまり、資格取得を必須とすることは、リスクを伴っているという側面もあるのです。

もちろん、「弁護士になるために司法試験を受ける」「監査業務に就きたいので、公認会計士の資格を取得する」というようなケースは話が別です。その仕事を行うために必要な国家試験ですので、頑張ってチャレンジする価値がおおいにあるでしょう。

「キャリア形成=資格取得」と考えてしまう人も少なくないため、老婆心ながらお伝えさせて頂きました。

転職は必須ではないが、備えておくことが大切

ここまで読んで、キャリアの自由度を高めることの重要性について、ご理解頂けたことと思います。

もちろん、転職をすることは必須ではありません。むしろ、望む仕事・望む環境なのであれば、その職場に定年まで勤務するほうが理想的です。

しかし、長い人生を見据えると、「ひとつの会社に居続ける」と決めつけるのはリスクが高く、いざというときには「転職できるように、備えておくこと」が大切なのです。

なお、このようなキャリア形成ができるようになった背景には、「転職市場の発達」があります。従来は、魅力的な転職先が少なく、新卒で入った大企業に残る以上に良い選択肢が、ほとんどありませんでした。しかし、2000年以降に日本でも転職市場が飛躍的に発達したことで、魅力的な転職先が急増したのです。

キャリアの自由度を高めるという考え方は、このような背景をベースとしており、まさに新しい時代のキャリア形成法と言えるでしょう。

最終となる第3回では、「自由度の高いキャリア」をつくるための具体的な方法、仕事の選び方について解説します。

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著者プロフィール
渡辺 秀和
CareerPod編集長
渡辺 秀和
コンコードエグゼクティブグループ|代表取締役CEO
戦略コンサル、外資系企業の幹部などへ1000人を越えるビジネスリーダーの転職を支援したキャリア設計の専門家。「日本ヘッドハンター大賞」初代MVP受賞者。 著書:『未来をつくるキャリアの授業』(東京大学でのキャリア設計の教科書に指定)

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