本シリーズでは、東大ケースシリーズ『伝説の「論理思考」講座』の著者による、ケース面接の演習問題の解説を実施します。解説内容は、「つまずきやすい箇所とそれらの回避策」を中心としたものです。
演習問題には、他では見かけない発展的なテーマを題材としたケース問題を採用しています。そのため、直感だけで解くことが難しい問いが多いです。解説を確認しながら、しっかりと論理思考が実施できているか、チェックしてみてください。
さて、今回の問いは以下の通りです。
日本国内における、防犯カメラの市場規模を推定してください。
まずは、本番と同様に、3分程度の時間を使って、一人で考えてみましょう。加えて、まだケース問題の練習を始めたばかりの方は、自分が十分と感じるまで時間をかけて、じっくり解いてみてください。その場合、「3分で考えた内容」と「十分に考えた内容」を分けて残しておきましょう。
監修者
ケースアカデミー東京(旧東大ケーススタディ研究会)
"東大生が書いた"シリーズの著者
2008年6月より戦略コンサル志望者を中心に活動開始。フェルミ推定やビジネスケース等の幅広いケーススタディの研究、セミナー、および就活支援活動を行っている。書籍の「東大ノート」シリーズは40万部を突破するなど、就活生や転職志望者を中心に高い支持を得ている。 【主な著書・編書】『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』『東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート』『東大生が書いた 議論する力を鍛えるディスカッションノート』『東大ケーススタディ研究会 伝説の「論理思考」講座』(いずれも東洋経済新報社)
今回のケース問題で差がつくポイント
今回の問いで、特に差がつくと思われる箇所は、以下の通りです。
- 前提条件の確認:どこまでの範囲の防犯カメラを対象とするか
- 各数値の推定:防犯カメラの「既存の設置台数」を、面接官と議論しながらどのように推定していくのか
以下、上記の2点を中心としながら、回答上のポイントを一通りチェックしておきましょう。
一人で考える時間における検討内容
ここでは、ケース面接の序盤である以下の2ステップまでに、必要な検討内容を確認しておきます。
- 一人で考える時間(最初の3~5分程度)
- 一人で考えた結果を伝える時間(伝えながら、新たに考えた内容も追加する)
一方、面接官からの質疑応答(面接官との議論)の中で、新たに深めていく検討内容については、次の章で解説します。
1. 前提条件の確認
計算に入る前に、問いの前提条件として確認しておきたいのは、以下の2点です。
条件①「市場規模」の対象期間
まず、「どのくらいの期間」の市場規模を計算するのか、明示しておきましょう。多くの場合、市場規模は「1年間」で計算されるので、1年間にしておけば、特に問題ないでしょう。
もちろん「1年間」が絶対ではありませんが、あまりおかしな期間を提示すると、「なぜその期間にしたの?」と面接官から指摘をされ、余計な時間を取られるリスクがあります。
条件②「防犯カメラ」に含まれる範囲
ここは、受験者の間で非常に差がつくため、詳しく確認しておきましょう。
市場規模の数値の計算に入る前に、まずは「防犯カメラ」という単語が指す範囲を定義する必要があります。たとえば、以下の3つのような検討が必要です。
■ 監視カメラを含むのか
「防犯カメラ」と似た単語に、「監視カメラ」があります。この2つについて、皆さんは違いがわかるでしょうか。
簡単に述べてしまえば、カメラの設置の目的が、「防犯(犯罪の防止)」か「監視(事象の記録)」のどちらなのかという違いになります。しかし、どちらの目的であっても、必要なカメラの機能は似ているため、「防犯と監視の両方の目的に対応しているカメラ製品」も多数存在しそうな気がします。
以上のような観点から、今回の「防犯カメラ」として、どの範囲までを含むのかについては明確にしておいた方が良いでしょう。以下、想定されるパターンを提示しておきます。
- パターン1:あくまで、設置目的が防犯の場合のみを対象とする
- パターン2:防犯カメラとして使える製品であれば、設置目的に関わらず対象とする(防犯目的で使える監視カメラを含める)
- パターン3:防犯カメラと監視カメラの違いは曖昧なので、どちらも対象としてしまう
■ ダミーの防犯カメラを含むのか
昨今、街中の色々な場所で防犯カメラを見かけます。しかしながら、これらのカメラが全て本物とは思えません。カメラは高額であり、目的が「防犯」であるならば、映像を撮影・記録する機能がない「ダミーのカメラ」であっても一定の効果が見込めるからです。
このような「ダミーの防犯カメラ」は、今回対象としている防犯カメラの範囲に入るのでしょうか。以下、想定されるパターンを提示しておきます。
- パターン1:偽物であっても、防犯目的で設置されているカメラ(のようなもの)なのだから、範囲内にする
- パターン2:カメラとしての撮影機能を持たない製品なのだから、範囲外にする
まず、世の中で売られているさまざまな製品の市場規模を定義した場合、ある程度大きな分類で考えれば、ダミーの防犯カメラも市場の中に含まれると思われます。その意味では、パターン1が合理的です。しかし、市場規模をより細分化していくと、「本物の防犯カメラ」と「ダミーの防犯カメラ」に分かれます。その意味では、パターン2も十分に合理的です。
ちなみに、「ダミーの防犯カメラを含むか否か」は、カメラの台数はもちろんですが、「単価」にも大きな影響を及ぼします。そのため、具体的な市場規模の計算に入る前に、明確にしておいた方が良いでしょう。
■ 防犯カメラの周辺機器を含めるか
防犯カメラは、映像を記録する媒体などの周辺機器が必要です。特に、法人用の防犯カメラの場合、カメラ単体ではなく、「映像記録用のレコーダー・記憶媒体」や「映像確認用のモニター」などをセットで販売している可能性もあります。
さらに、「映像のモニタリングサービス」などの、業務委託サービスを実施している場合もあります。
この辺りを「防犯カメラ市場」として含むのか否かについても、チェックしておいた方が良いでしょう。ダミーの防犯カメラと同様、広義で見れば、防犯カメラ市場の範囲に入るかと思います。しかし、狭義で見てカメラ本体だけとすることも不自然ではありません。
たとえば、記憶媒体として汎用的なSDカードなどを使うならば防犯カメラ市場の範囲外です。一方でその防犯カメラ専用の記憶媒体が設定されているなら、それは「防犯カメラ周辺機器」となり、広義でみた防犯カメラ市場の範囲内です。
現実的には、セットで販売されている商品から、カメラ本体の売価だけを抜き出すことが困難な場合も少なくありません。そのため、販売価格をもとに考える「市場規模」について、セット商品を除外した値を作ることが困難ではあります。ただし、困難ではあるものの、カメラ本体のみの市場規模を「予測値」という扱いで推定することもあるかと思います。
その意味で、セット商品を含む場合、除外する場合のどちらも合理的なので、前提条件として明確にしておきましょう。
2. 計算式の分解
次に、「防犯カメラの市場規模」を構造的に分解して、計算式を作成します。まずは、ツリー構造で分解してみましょう。以下、一例を提示します。
論点:新規と既存を分けるか
計算式の分解・構成は、さまざまな方法が考えられます。仮に上記のような需要ベースで分解する場合、「新規と既存を分けるか」という論点があります。
一般的に、「新規購入」と「既存製品(設置済み)の買い替え」は、以下の通り、売上を構成するロジックが大きく異なります。
- 新規購入: 新しく建設される建物の数など、潜在的な防犯カメラの需要をベースに計算
- 既存製品の買い替え: すでに設置されている防犯カメラの台数をベースに計算
そのため、抽象的な視点から述べれば、分けて計算を進めるべきと言えるかと思います。
しかし、「数値を概算する」という目的を考慮すると、必ずしも必要とは言い切れません。なぜなら、「新規購入(例:新しい建物が建設された)」の需要がある一方で、「買い替えせずに廃棄(例:建物自体を取り壊した)」というパターンも存在し、ある程度「成熟した市場」であれば、この2パターンの数値は、おおむね同じ値になると思われるからです。
その意味では、「既存製品の買い替え」に関して、「買い替えせずに廃棄」という場合を無視して計算すれば、新規と既存を分けた場合の計算結果とおおむね同じになると思われます。
そして、今回の問いである「防犯カメラ」の場合、ある程度市場が成熟していると思われます。つまり、「新規購入」と「既存製品の買い替え」を分けなくても、数値は大きくズレないでしょう。以降の解説では、後者の「新規と既存を分けない構造」に分解した場合を想定して解説します。
3. 各項目の値の推定
次に、分解された計算式の各項目の値を推定していきます。
項目①:既存の設置台数
各項目の値推定を進める上で、おそらく、この項目の推定が最も難しいかと想定されます。そのため、「面接官からの深掘りの質問」でも、この項目について多く質問される可能性が高いでしょう。
詳しくは次章で解説しますが、いったんは、以下のような形で、計算式と推定値を提示しておきます。
あくまで、最初の数分間で考えた結果なので、ある程度大雑把な推定になるのはやむを得ないでしょう。
項目②:買い替え頻度
■ 【論点1】どのような場合に買い替えが発生するのか
まずは、「買い替え理由」を整理しておくべきでしょう。一般論として、買い替えは以下2つの理由をもとに発生します。
- 理由1:寿命に合わせた買い替え(「故障した」or「耐用年数を超えたため、いつ故障してもおかしくない状況になった」)
- 理由2:より良い製品への買い替え(例:故障していないが、最新の高性能な製品に買い替え)
防犯カメラの場合、どのような買い替え理由がメインとなるのでしょうか。結論として、以下の背景から理由2はそれほど大きな要因とはならないと思われます。
- PCやスマートフォンのように、機械的な性能が短期間で大幅に上がるとは思い難い
- 少しでも高性能・最先端の防犯カメラが必要になるような場所は限られる(一部のセキュリティが厳しい法人など)
- 自動車のように、「性能上は何も問題ないが、趣味の問題で最新モデルに買い替える」といったことは起こりにくい
そのため、多くの防犯カメラが、理由1のように、故障や耐用年数を考慮した形で買い替えがなされると想定されます。
■ 【論点2】防犯カメラの寿命はどの程度か
上記を踏まえ、「寿命」をベースにして、買い替え頻度を推定しましょう。このとき、身の回りにある、防犯カメラに近いと思われる製品の寿命を目安に推定・類推していくことが有効です。
身の回りの家電製品・電気製品の寿命を一般的に考えると、せいぜい5年程度かと思います(必要あれば、いくつかの製品の寿命を一覧で提示しても良いでしょう)。つまり、その延長で考えれば、防犯カメラの寿命は5年間と推定できます。なお、これ以上の詳細化については、次章で解説します。
■ 【注意点】計算の前提を明確に伝えること
買い替え頻度について、論点②だけを議論するだけで終わる方が少なくありません。しかしながら、論点②の計算方法が合理的であることを主張するためには、論点①の「寿命に応じた買い替えがメインで、性能Upのために買い替えるという需要は少ない」という前提が必要になります。
論理的な回答とするためには、このような「なんとなく置いている前提」についても、明確に伝えることが重要です。
項目③:単価
「単価」についても「寿命(買い替え頻度)」と同様、身の回りにある、防犯カメラに近いと思われる製品を踏まえて推定していくことになると想定されます。
たとえば、「精密機械」「カメラ」という共通項を持つ「スマートフォン」「一眼レフカメラ」などの製品が挙げられます。次に、これらの製品の価格を参考にしながら、類推する形で防犯カメラの価格を設定しましょう(おそらく、数万円~十数万円)。
加えて、前提条件の設定によっては、以下のような点を考慮する必要が出てきます。
- 論点1:ダミーの防犯カメラも対象範囲内の場合、それを単価に反映させる
- 論点2:防犯カメラの周辺機器も対象範囲内の場合、それを単価に追加する
防犯カメラの中で、ダミーの割合が高くなれば、それだけ平均単価が下がります。そのため、両タイプの製品の単価はもちろんですが、「ダミー率」についても、計算が必要になります。たとえば、以下のような形で構造的に整理しながら、面接官に示すと良いでしょう。
4. 最終的な数値の計算
数式内の各項目の数値を推定したら、最後は計算するだけです。特に面接官から指示がなければ、ある程度数値を丸めながら計算することが有効です。たとえば、「1.98×1.90」といった計算であれば、「2×2」としてしまっても問題ありません。ただし、数値の「切り上げ」と「切り下げ」が片方に偏らないよう、ある程度バランスを取りましょう。
以下、参考までに、今回の回答例における計算結果を示しておきます。
面接官からの深掘りの質問に応じた検討内容
さて、一人で考えた時間の検討結果を面接官に伝えても、面接時間の半分も終わってはいません。残りの時間で、面接官からの質問を多数受けることになります。
このとき、面接官からの質問は、「質問・指摘された内容を踏まえて、より良い回答を作る」といったスタンスで対応する必要があります。
つまり、「面接官はディスカッション相手」という側面も非常に強いです。その点を意識しながら、この「深掘りの質問に対する対応」という項目を確認してください。
1. 「広さ」の不足…見落としがある箇所について指摘される
ケース面接では、「それで全部?」「それであってる?」といった質問をうけることが多いです。その理由は、面接官が「あなたの回答には、見落としがある」と考えているからになります。
面接官からの指摘は、曖昧に実施される
面接官の指摘は、かなり曖昧に実施されます。どこを見落としているのか、可能な限り明確にしない形で聞かれるイメージです。そのため、指摘を踏まえて見落としている箇所に気が付くことは、簡単ではありません。
たとえば今回のケースにおいて、「計算式の分解」で「新規購入」の項目を述べていなかった場合、「計算式の分解結果の全体」に対して、「それであってる?」といった質問をされます。「既存の設置台数の置き換えだけではないよね?」といった形で、具体的に見落とし箇所を指摘してくれることは稀です。
このとき、ミスの箇所を把握しにくいこともあり、あまり考えずに「はい。あっていると思います」と答える人がいますが、これはNGです。面接官が特に問題ないと考えている回答に対して「それであってる?」と聞いてくる可能性は極めて低いでしょう。
ミスを自力で修正できる機会をせっかく与えてくれているのですから、どこを見落としているのか、しっかり考えるようにしてください。
【注意】前提条件の箇所は、特に指摘が難しい
特に前提条件の箇所は、見落とし箇所に気が付くこと難しい点に注意が必要です。以下、今回のケースにおける具体例を示しておきましょう。
■ 例:「監視カメラの有無」が明確でない場合
たとえば、「監視カメラを含むか否か」を明確にしないまま「既存の設置台数」の推定をした場合、防犯カメラの設置場所を洗い出したところで、「それで全部?」といった形で指摘されます。
このとき、受験者が無意識に「監視カメラは含まない」という前提で設置場所を整理している時ほど、洗い出される項目が少なくなり、このような質問をされやすくなります。
一方で、単純に「他に設置場所はないのか?」を検討しても、面接官の要求にこたえることは困難です。なぜなら以下のように、そもそも「前提条件」に関する検討をする必要があるからです。
- 「監視カメラを含まない」という前提条件を伝える
- 自分の頭の中で、「監視カメラを含む」という前提条件に変更した上で、追加の設置場所を伝える(+その上で、「監視カメラを含む」という前提条件を伝える)
しかし、面接官の指摘は、あくまで「それで全部?」という形なので、これらの点に気が付くことは困難です。
以上のように、前提条件の見落としは、面接官からの質問を通して、後から挽回することが困難です。そのため、最初に一人で考える時間の中でしっかり考え、見落としを回避しましょう。
2. 「深さ」の強化…もう少ししっかり検討するように求められる
「広さ」の指摘だけでなく、「もう少し詳しく説明して」「もう少ししっかり計算して」といった形の指摘をされることもあります。たとえば、「既存の設置台数」の推定において、もっとしっかりと計算するよう求められるかもしれません。
このとき、「受験者の検討に不備がある」という意図で指摘しているのではないという点に注意してください。そもそも、3分程度で考えた内容なので、検討が浅いのはやむを得ません。そのため面接官から指摘された箇所について、「なるほど、もう少し詳細に検討してみます」などと返答しながら、残りの時間の中でより詳細に検討するようにしましょう。
以下、今回のケースにおいて、指摘されそうな箇所を解説しておきます。
「既存の設置台数」の深掘り
すでに解説した通り、この項目は、分解された計算式の項目の中でも、最も振れ幅が大きい箇所になると思われます。そのため、面接官からより詳細に検討を求められる可能性が高いです。特に、「法人」の箇所については、なぜその数値になるのかという根拠が曖昧なので、深く質問されると思われます。
このとき、「何かしらの適切な軸」を提示しながら議論を深めていくことが重要です。以下、いくつかの想定質問について、確認しておきましょう。
■ 【詳細質問1】「法人」における「普及率」の箇所
さて、「法人」における「普及率」ですが、数値の設定に対してどのようにロジックを立てればよいでしょうか。
おそらく、「○○の建物には普及している」「△△の建物には普及していない」といった議論が有効です。そのため、建物をカテゴリで分ける必要があるでしょう。建物のカテゴリですが、たとえば以下のような分類が考えられます。
- 商業施設
- オフィス
- 工場・倉庫
- 金融機関
- 公共交通機関
- 役所
- 学校
- 病院
- マンション・アパート(※共有部分の場合は「個人」に含まれない)
ちなみに、上記の一覧を厳密にMECEな形で構造化するためには、非常に時間がかかるので、ある程度の「ダブり」「粒度の違い」を覚悟しつつ、「漏れなく」洗い出すことを意識するのが現実的かと思います。
その他、厳密に述べると、「道沿い(商店街など)」もあります。これは「建物」ではないので、別途項目を追加する必要があります。
上記の分類別に普及率を議論すれば、より詳細な検討になると思われます。加えて、建物数も上記のカテゴリ別に定義する必要が出てきます。その意味では、「法人」側の議論の全体を、以下のような形に変更すべきかもしれません。
■ 【詳細質問2】「法人」における「設置台数」の箇所
上記の図表の形式で、値を埋めたとしましょう。そこで面接官から、「設置台数」について、「なぜその値にしたのか」と質問された場合、どのような検討・返答をすればよいでしょうか。
この場合、さらに軸を追加して場合分けしながら議論するのが有効です。たとえば、以下のような場合分けです。
- 建物内(各種建物への入口、エレベーター、部屋の中)
- 建物外(敷地の入口、その他の建物周辺)
建物のカテゴリによって、どこに、どの程度の防犯カメラを設置されているのか異なります。上記の形で場合分けした上で、面接官と議論するのが有効でしょう。
場合によっては、「普及率」も「設置場所(建物内、建物外)」に分けて計算した方が良いかもしれません。
■ 【詳細質問3】「法人」に関する検討の続き
ここまでの詳細化でも十分とは限りません。たとえば、「オフィスの普及率を0.5にしているけど、それはなぜか?」などの形で、より深く検討を求められる場合もあります。このとき、どの部分を質問されるかは面接官次第なので、その場で「臨機応変に対応する」というのが基本になります。
「どの項目が重要か(最終的な推定数値に与える影響が大きい項目はどれか)」という視点ではなく、単に「この項目について、どのようなアプローチで考えるのか見てみたい」という視点で、質問されることもあります。そのため、最初の一人で考える時間で、事前に検討しておくことは困難です。
そのときの対応としては、何かしらの新しい軸を1つ以上入れながら、議論を詳細化していく流れが基本になります。たとえば、先ほどの「オフィスの普及率が0.5」の箇所であれば、「オフィスの建物の種類(戸建て or ビル)」などの新たな軸で場合分けしながら、議論を詳細化していきます。
この際、当然ですが「どんな数値を入れるのか」ではなく、「どんな軸を提示(場合分け)するのか」が重要です。先ほどのオフィスの例であれば、他にも「業種」「立地」など、さまざまな軸が考えられます。
そのため、いきなり思い付いた軸を回答するのではなく、まずは「どんな軸があり得るか」という視点から候補を複数洗い出した上で、最適なものを提示することが重要です。必要であれば、2つ以上の軸を提示しましょう。
ちなみに、このような詳細化・場合分けを経て、推定した数値が変化しても、特に問題はありません。
その他の深掘り
すでに述べた通り、今回のケースの場合は「既存の設置台数」が最も議論になると思われますが、他の項目についても、深く検討することを求められる可能性があります。以下、確認しておきましょう。
■ 「買い替え頻度」の深掘り
まずは「買い替え頻度」について、深く検討することを求められた場合を考えてみましょう。前述の解説では、他の家電製品・電気製品の寿命を基に、「5年間」と推定しました。
このロジックに対して、「もう少ししっかり考えて」といった趣旨の指摘をされたとしましょう。その場合、防犯カメラの寿命に影響を与えそうな以下の軸を追加で提示して、場合分けしながら検討することが考えられます。
- 軸1:「屋内利用」or「屋外利用」
- 軸2:「故障するまで使う」or「故障リスクが高まった段階で買い替える」
まず、屋外で利用すれば雨風にさらされるため、それだけ早く故障しやすいと思われます。防犯カメラには、屋外に設置されているものも多いので、そうしたカメラは短めに寿命を設定すべきかもしれません。
また設置場所にもよりますが、「防犯」という性質上、「壊れていた」という事態を避けたいとも想定されます(犯罪が起こったときに壊れていては、大きな損失になるため)。
そのような設置場所の場合、寿命が来ていなくても、ある程度の年数を使った段階で買い替える可能性もありそうなので、その分だけ寿命を短めに設定すべきかもしれません(逆に、設置場所によっては、壊れるまで使う場合も想定されます)。
■ 「単価」の深掘り
次に、「単価」についても考えてみましょう。おそらくは、「防犯カメラの設置場所に応じて、単価を変える」という軸を入れることが有効で、たとえば以下の通りです。
- 軸1:家庭用 or 業務用
- 軸2:屋外用 or 屋内用
上記は、いずれも「2パターンへの場合分け」という簡単な例を示していますが、もちろん、設置場所・利用目的をより具体的に整理しても良いかもしれません。
業務用の方が、より高い「性能(例:解像度)」や「信頼性(故障しにくい)」が必要なので、単価が上がると思われます。また屋外用の方が、雨風をしのぐために頑丈である必要があるため、単価が高くなるかもしれません。
3. 最終的な計算結果の算出と評価
上記のような議論内容を踏まて、最終的な市場規模の数値も見直す必要があります。特に、色々な軸を入れて場合分けが増えた場合、計算式がより複雑化している場合が大半です。このとき、以下の2つの視点を意識することが重要です。
視点①:厳密な数値計算は不要(概算でOK)
「一人で考える時間」と同様、この段階においても数値の計算は、概算で問題ありません。特に、新卒のケース面接は、この段階に到達した時点で、面接時間が足りなくなっていることも多いです。そのため、より概算を意識してください。
加えて、「概算」によって時間を浮かせることで、次の視点2に時間を使うことも重要です。
視点②:数式レベルのミスに注意
「数字の計算ミス」よりも、そもそもの「数式の間違い」の方が、評価として致命的になりやすい点に注意が必要です。この段階で発生しやすい、よくあるミスは以下の通りです。
- 掛け算と割り算を間違える(例:割り算する箇所を掛け算してしまう)
- 数値の単位を間違える(例:とある項目において、年単位の値を入れるところを、月単位の値を入れてしまう)
■ 【検証1】ここまでの検討にミスがないかチェックする
上記のような数式ミスは、「最終的な計算結果の算出」の段階でミスしている場合だけではありません。手前の「計算式の分解」などのステップでミスをしていることもあります。特に手前の段階でミスをしている場合、この「最終的な計算」の段階が、自力でミスに気が付いて修正することができる最後の機会とも言えます。
そのため、数式に間違いがないのかを意識しながら計算を進めることが、面接の評価を上げる上で重要です(そのためにも、視点①で解説した通り、細かい数値の計算を概算にとどめることが重要です)。
■ 【検証2】別途概算した数値を使って、計算結果を評価する
また、別途概算した数値と比較することも重要です。この「別途概算」は、とても大雑把な値で問題ありません。最初に一人で考える時間で計算した結果を使っても構いませんし、もっと大雑把な値を使うことも有効です。
たとえば、今回のケース問題であれば、ここまで検討してきた軸や視点を何となく頭の中で思い浮かべながら、「日本人口よりも1桁少ない、1000万前後の数値になりそう。おそらくは、500万から3000万くらいではないか」といったレベル感です。
この概算数値は、かなりレンジが広いため、意味がないように思えるかもしれません。しかし、先ほど示した「割り算と掛け算を間違える」「数値の単位を間違える」といった数式レベルのミスは、1桁以上は変わってしまう場合が多いので、このくらいの大雑把な概算でも十分に有用です。
面接官から、「今回の計算結果をどう思う?」などと質問された場合は、このような形で、自分の計算結果を評価しましょう。
面接時におさえておきたい視点
ここまでは回答例を解説してきましたが、これ以降は「回答上、おさえておくべきポイント」を紹介していきます。
ポイント1:「最初に一人で考える時間」で、どこまでの検討を実施すべきか
さて、「最初に一人で考える時間(+それを面接官に伝える時間)」で、どこまで検討できていれば良いのでしょうか。以下、その時間が「3〜5分程度」である場合について解説しておきます。
目標とするレベル(理想的な回答)
まずは、「目標とするレベル」の回答について、確認しておきましょう。「面接官からの深掘りの質問に応じた検討内容」で述べたような内容まで検討するのは、3~5分という時間を考えると非現実的であり、不要だと思われます。
そのため、「一人で考える時間における検討内容」で述べたような点を、一通り検討済みであることが、一つの目安になるかと思います。特に今回は「市場規模を計算せよ」と問われているため、「市場規模の数値が計算済みである」と言うのが、一つの目安になるかと思います。
ただし、「最初に一人で考える時間」は、面接全体が30〜45分程度ある中で、まだ半分も終わっていない段階です。そのため、市場規模の値は「大雑把な暫定値」で問題ありません。
具体的には、「深掘りの質問に応じた検討」で解説したレベルの詳細が不要なだけでなく、「一人で考える時間における検討」における、各数値の推定について解説したレベルよりも、もっと大雑把な数値設定で問題ないかと思います。
最低限達成したいレベル(現実的な回答)
一方で、「最初に一人で考える時間」は時間的な制限が厳しいため、上記の「目標とするレベル」まで検討できない場合もあるでしょう。その場合、「最低限」というレベルとして、「前提条件」と「計算式の分解」が終了していることを目指すのが良いかと思います。
なぜ、この2点が重要なのでしょうか。それは、この2点にミスがあると、以下の理由から、その後の「面接官との議論」が難しくなってしまうからです。
- 面接官からの指摘を経て、前提条件の見落としに気が付くことは難しい
- 「筋の悪い計算式」を提示してしまうと、その計算式を基に推定を実施することになるため、数値の推定ロジックを面接官に納得してもらうことが難しくなる
以上のように、「前提条件」と「計算式の分解」のレベルでミスをしてしまうと、その後の「面接官との議論」が困難になります。そのため、「前提条件」「計算式の分解」のレベルで、「致命的なミスをしない」ことが重要です(小さいミスはOK)。
しかしながら、焦って無理やり「目標とするレベル」まで検討を進めた結果、「前提条件」や「計算式の分解」で大きなミスをしてしまい、その後の「面接官との議論」がうまくいかず、最終的な検討結果が不十分に終わる方が少なくありません。
実際に面接官を担当するとわかりますが、半分以上の受験者が、この「前提条件」や「計算式の分解」で大きなミスをしています。
そのくらいなら、目標とするレベルまで実施することは諦めて、「前提条件」や「計算式の分解」を念入りに実施しましょう。
ちなみに、この最低限達成したいレベルにとどめる場合、「最初に一人で考えた内容」を面接官に伝える際、最初に「まだ具体的な数値の計算はできていませんが、どのように計算するのかを説明すると…」といった形で、問いである市場規模の推定が終わっていないことを明確に伝えましょう。
ポイント2:各項目の数値の推定をどのように行うか?
さて、フェルミ推定において、各項目の数値をうまく設定できないことも少なくないでしょう。その場合の対応について、ここまでの解説も踏まえながら、まとめておきたいと思います。
対応①:類推を活用する
この対応は、「買い替え頻度」や「単価」で示した通りです。「防犯カメラに近い、身の回りの家電製品・電気製品から、推定したい値を知っているもの」を選定し、その類推から値を設定していました。
ただし、あくまで「類推」なので、値をそのまま使うと少しロジックが弱くなります。その場合、「深掘りの質問に対する対応」で解説したように、他の軸を加えながら、値を調整しましょう。
対応②:細かく場合分けする
上記でうまく対応できない場合、「場合分け」を試すことになります。こちらは、「既存の設置台数」で解説したような内容になります。
別の軸を入れて場合分けすることで、「法人用の物件」という抽象的な項目が「オフィス用の物件」「商業施設の物件」といった形で具体的になります。その結果、具体的にイメージ・類推ができるため、数値を推定しやすくなります。
面接官の立場からも、具体的にイメージしやすくなるため、受験者から提示された数値に納得しやすくなります(つまり、推定した数値の説得力が上がります)。
対応③:数式の分解方法を変える
対応②でもうまくいかない場合、そもそも「計算式の分解」の方法自体を変えたほうが良いかもしれません。よくあるのは、「需要ベース」から「供給ベース」に計算式を変更するという対応です。
しかしながら、そもそも「どの計算式でも、数値の設定が困難な項目がある」というケースが出題されることも少なくありません。その場合は、前述のとおり色々な軸を提示しながら、面接官と議論していくしかありません。
この場合、どれだけ議論を続けても、納得度の高い結論を導くことは困難です。そのため、面接官との議論という、プロセスそのものの質が重要になります。
余談ですが、対応②のレベルで議論する前に、「さまざまな数式の分解方法の中で、どれが最も適切か」という対応③について議論することも有効です。