- 大手電機メーカーの国内競争力強化のための戦略策定支援
- 化粧品ブランドのグローバル展開戦略策定支援
- 国内大手食品会社の東南アジア展開の戦略策定支援
- 自動車部品メーカーの事業多角化戦略策定支援
- 医療機器メーカーの中期経営計画策定支援
第2回 戦略コンサルの仕事とは
第1回では、戦略コンサルティングファーム(以下、戦略コンサル)の魅力を中心に解説しました。戦略コンサルは、会社の将来を左右するような経営課題の解決を支援する、まさに経営者の参謀のような存在と言えるでしょう。
今回は、戦略コンサルが具体的にどのような仕事をしているのか、事例とあわせて紹介したいと思います。
戦略コンサルのプロジェクトとは
コンサルタントは、クライアントから依頼を受けて、その企業の経営課題の解決を支援します。しかし、企業内には数多くの課題がありますので、そのすべてをサポートすることはできません。そのため、今回の依頼で解決するテーマや範囲、費用を定めて取り組むことになります。これが「プロジェクト」と呼ばれるものです。
プロジェクトの期間は、1ヶ月で終了するような短いケースもあれば、数年間に及ぶような長いケースもあり、実にさまざまです。戦略コンサルでは、3~6ヶ月程度のプロジェクトが多くなっています。
通常、戦略コンサルのプロジェクトを推進するチームは、ファーム内から3~5名程度のメンバー、クライアント企業からも数名のメンバーが選出されて、結成されます。このチームの連携が、プロジェクトの成否を左右すると言っても過言ではありません。
戦略コンサルの代表的なプロジェクトテーマ
戦略コンサルへクライアント企業から相談される内容は実にさまざまです。今回は、代表的なプロジェクトのテーマを5つご紹介しましょう。
1. 経営戦略の策定支援
企業が成長し続けるためには、将来のビジネス環境を見据えた経営戦略を策定することが必要不可欠です。海外へ進出したり、競合他社を買収したり、場合によっては事業から撤退するといった会社の未来を左右するような計画を考える、極めて重要な作業となります。経営者の参謀たる戦略コンサルへ依頼される代表的なプロジェクトといえるでしょう。
経営戦略の策定は、業界内でのポジショニング、顧客層やニーズ、提供しているサービスや製品の特徴、さらには先端技術が与える影響など、現状や将来を適切に分析することからはじまります。同時に、クライアントのビジョンやミッションを再整理したり、見直すことも珍しくありません。その上で、目標を立てて具体的な計画まで落とし込んでいきます。
2. 新規事業戦略の策定支援
ビジネス環境の変化が激しい現代において、多くの大企業が、既存の主力事業の先行きに不安を抱えています。大手書店や百貨店などの小売業がAmazonなどのECに席巻されていたり、YouTubeやSNSなどの台頭によってテレビ局や出版社をはじめとする大手メディア業界が苦戦しているのを皆さんもご存知でしょう。
このような中、さまざまな大企業が新規事業に取り組んでいます。しかし、新しい事業であるがゆえに、社内に十分なナレッジがありません。そのため、多様な業界の知見を持ち、先端的なビジネス動向に精通する戦略コンサルへ相談するケースが多くなっているのです。
- グローバル自動車企業のコア技術を使った新規事業創出支援
- 大手教育系企業のeラーニングを活用した個別学習支援サービスの新規事業立ち上げ支援
- ファッション業界におけるサステナビリティ志向の新規事業立ち上げ支援
- IT系企業のソーシャルメディアを核とした新規事業立ち上げ支援
- 大手金融機関のデジタル通貨を活用した新規事業立ち上げ支援
3. 企業の買収・合併(M&A)の支援
大手企業は、既存事業の規模を拡大したり、新しい事業に進出したりするために、他企業の買収を検討することが珍しくありません。逆に、採算の取れない事業を売却して、撤退することもあります。
企業の買収には、数千億円~1兆円を超える巨額の費用がかかることもあります。新聞やニュースで目にしたことがあるでしょう。このように企業の買収や事業の売却は、クライアント企業にとってインパクトが非常に大きいため、戦略コンサルへ相談されることが多いテーマの一つとなっています。
- 医療機器メーカーの海外事業拡大にむけたM&A戦略策定支援
- 航空機エンジンメーカーの買収先に対する技術力評価とM&A交渉支援
- ソフトウェア企業の買収候補のスクリーニングと評価支援
- 大手不動産会社による国内事業拡大を目的としたM&A後の経営統合支援
- 部品メーカーの海外事業撤退に伴う、売却先の選定と交渉支援
4. マーケティング・営業戦略支援
売上増加に向けたマーケティング戦略や営業施策の策定を支援するプロジェクトです。新商品のシェア獲得のための営業戦略や、順調に伸びている商品やサービスが今後も売れ続けるようにするためのマーケティング施策を導き出します。実行支援まで実施することが多く、営業マニュアルの作成や営業部の社員育成まで行なうことも珍しくありません。
- 化学品メーカーによるオンラインにおけるマーケティング戦略策定支援
- 大手百貨店の若年層を対象とするマーケティング戦略策定支援
- 食品加工メーカーの中東市場での営業戦略策定支援
- 農業機械メーカーのアフリカ市場での営業戦略策定支援
- 省庁による欧州市場プロモーション戦略支援
5. DX推進・IT戦略策定支援
デジタル・ITの力を活用することで、仕事を効率化するDX(デジタルトランスフォーメーション)や、それらを活用することで画期的な事業をつくりたいといった相談が、戦略コンサルにも増えています。なお、戦略コンサルが担当するのは、デジタル・ITを活用した戦略の立案、業務の設計が主となり、システムの実装は行わないケースがほとんどです。
- 大手運送会社の中期経営計画と連動した社内DX推進支援
- 大手小売企業のIT化を前提とした既存事業の変革支援
- エンタメ会社のテクノロジーを活用した業務変革支援
- エネルギー会社の社内システム構築推進と、DXコア人材の育成
- ネット系金融会社のスマホ連動DX化プロジェクト支援
戦略コンサルのプロジェクト体験談
戦略コンサルの仕事の実態を、より具体的につかんでいただくため、コンサルタント武田さんのプロジェクト体験談を紹介しましょう。
- 20代後半、新卒5年目
- プロジェクトテーマ:教育業界の大手企業X社の新規事業立ち上げ
1. 案件獲得(営業)
近年、新興国企業の台頭やAIなどの先端テクノロジーの登場などにより、企業を取り巻く競争はますます激化しています。いまや大企業の主力事業であっても、その先行きは不透明です。このような背景の中、戦略コンサルへ新規事業立ち上げの相談が非常に多くなっています。
戦略コンサルタントである武田さんは、教育業界をリードする大手企業X社の副社長と会食をする機会がありました。X社の副社長も、他の大企業と同様に新規事業立ち上げの必要性を感じていたものの、どのような事業に取り組むべきか悩んでいたそうです。
武田さんは、以前から教育改革に対して高い志と情熱を持っていました。武田さんは自分が考えていた日本の教育を進化させるプランを伝え、さらにX社であればそれを新規事業として取り組めるのではないかと、その場で熱く訴えたのです。興味を持った副社長から、後日コンサルティングの営業をする機会をもらいました。
当時の武田さんのポジションはマネージャークラスでした。プロジェクトの責任者となるのは、パートナークラスです。そのため、上司である親しいパートナーと共にプレゼン資料(提案書)を作成し、X社へ営業を行なうことにしました。
プレゼン資料ではX社の課題を明らかにしたうえで、解決策の初期仮説としていくつかの新規事業案を盛り込みました。会社が掲げるビジョンと、既存事業のギャップを可視化し、そのギャップを埋める為の手段として新規事業の提案をすると、相手からの理解度が高まります。
現状把握から分析、提案までをまとめる提案書を1週間ほどで準備しなければならなかったため、非常にハードでしたが、X社の社長と副社長へのプレゼンは成功。見事に案件を獲得することができました。
慣れないうちはとても大変で、作業が深夜に及ぶことも珍しくありません。しかし、盛り込むメッセージや些細な表現の違いによって、結果に大きな差が生まれるのです。
2. プロジェクトの開始
コンサルファーム側のプロジェクトチームは、パートナー、武田さん、コンサルタント1名、アナリスト1名の計4名で組成されました。X社側のチームは、副社長を筆頭に、50代の役員、40代の部長、30代の中堅社員の計4名です。戦略コンサルのプロジェクトとしては、一般的な規模と言えるでしょう。
本プロジェクトで中間報告までに取り組むべきことは、有力な新規事業案を洗い出すことと、その中から実施すべき新規事業を選定することです。
まずは、X社のビジョンを実現するうえで役立つと思われる数個の新規事業案を、さまざまな業界の事業戦略を参考にしながら、チームメンバーでピックアップしました。そして、教育業界に豊富な知見を持つX社のメンバーにもアイデアを出してもらいながら、検討を補強していきます。
その後、洗い出された複数の事業案について、競合他社の分析や市場調査、さらにはX社の持つリソースとの相性などを確認。特に有望な事業案を選定していきました。
X社の副社長やメンバーからも、「ぜひこの事業を進めたい」とミーティングで言われるようになるなど、プロジェクトは順調に進んでいました。
3. 中間報告
プロジェクトの開始から1ヶ月ほどが経過して中盤に差し掛かると、クライアントに対して中間報告を行う機会が設けられます。会社の決裁者や経営層を相手にプロジェクトの進捗報告を行う、とても重要な会議です。しかし、ここで武田さんに思わぬトラブルが発生しました。
当時、X社の社外取締役を勤めていた人から、中間報告会で猛烈な反対を受けたのです。次々と繰り出される重箱の隅をつつくような厳しい意見。プロジェクトメンバーたちには、その社外取締役が、なぜこれほどまで頑に反対するのか分かりませんでした。
後日、武田さんは、X社の他の役員たちに事情を確認してみました。実は、その社外取締役は、過去に武田さんたちが提案した新規事業と似た事業に取り組んだものの、失敗に終わったことがあったそうなのです。仮にこのプロジェクトが成功すると、社外取締役は自分の立場が危うくなると懸念をしていたのかもしれません。
そこで、武田さんたちは社外取締役に面談の機会をいただき、事業を立ち上げた時の困難や営業先の反応について、聞かせてもらうことにしました。話の大半は、「反対のための反対」といった印象を拭えないものです。しかし、膝を突き合わせて丁寧に話を聞いていくと、事業を進めていった際にぶつかる問題や、クリアすべき課題があることに武田さんは気づかされます。武田さんたちは、社外取締役の知見に感謝を伝え、事業案をブラッシュアップすることを約束します。それ以降は、その方から会議で反対を受けることもなくなりました。
4. 最終報告
3ヶ月ほどで新規事業の戦略立案まで無事にこぎつけました。営業先候補から集めたアンケートの反応も上々です。精緻な分析と細部まで考え抜かれた新規事業案が出来上がり、最終報告書に落とし込みました。
最終報告会でパートナーからのプレゼンを受けて、X社の社長も覚悟を決めたようです。その場ですぐに、社長から50代の役員へこの新規事業の立ち上げに取り組むように指示が出されました。
5. 実行支援
ついに新規事業を立ち上げる段階です。しかし、新規事業のトップを担当することになった役員の方には事業立ち上げの経験がありません。しかも、新規事業は軌道に載せるまでがとても難しいのです。
戦略コンサルの案件は、戦略策定をした段階(最終報告)でプロジェクトを終了することが多いのですが、このような背景もあり、本プロジェクトでは実行支援まで継続して依頼を受けました。
実行支援ともなると、クライアント企業のさまざまな社員を巻き込んでプロジェクトを進める必要があります。そのため、武田さんたちコンサルタントはX社のオフィスに毎日出社し、3ヶ月間、事業の立ち上げを支援しました。新規事業の一部である新サービスの試作を作りこみ、X社の社員と共に営業活動まで取り組みました。
初受注できたときは、X社のスタッフの皆さんから歓声が上がりました。武田さんも役員の方とハイタッチをして、喜び合ったのです。
営業活動や、そのあとのサービス提供までサポートし、その中で生まれる小さなトラブルの解決にも尽力しました。その後、新規事業は軌道に乗り、X社の重要な事業へと成長していったのです。
6. プロジェクトの終了
プロジェクトが終了した日の飲み会は、副社長や新規事業のトップ、現場の社員、コンサルタントたちが大集合し、笑いと涙があふれる打ち上げになりました。
当初は、武田さんやプロジェクトに関わるコンサルタントに対して半信半疑だった社員もいました。しかし、成果を残せたことで、プロジェクトが終わるころには揺るぎない信頼関係ができていたのです。X社の社員もコンサルタントも、プロジェクトの思い出を夜遅くまで語り合いました。
またこのとき、武田さんは50代の役員から、「このプロジェクトを通して、仕事のやりがい、醍醐味を久しぶりに思い出した」と感謝されました。武田さんは、「多くの人が仕事の喜びを味わえる会社を増やしたい」と、戦略コンサルという仕事への情熱がさらに高くなったそうです。
どれだけキレイな事業戦略を描けても、それだけでは世の中を変えることはできません。その戦略が実現し、持続的に機能することこそが、クライアントや社会にとって大切なことなのです。
もちろん、そのような結果に至るまでの道のりは困難の連続です。しかし、その過程で得られるクライアントの経営陣や社員との信頼関係や苦労を乗り越えた感動は、戦略コンサルの仕事の醍醐味と言えるでしょう。
戦略コンサルの仕事が、クライアント企業の新しい収益の柱を生み出したり、その企業で働く人々の人生に大きなインパクトを生み出すことをおわかりいただけたでしょうか。
ここまでの記事を読んで、戦略コンサルへの就職に関心が高まってきている方もいるでしょう。次回は、戦略コンサルにはどのようなファームがあるのか、それぞれのファームはどのように異なるのかといった点にまで踏み込んで、解説していきます。