戦略コンサル業界の未来
戦略コンサル業界の歩き方

第5回 戦略コンサル業界の未来

ここまで、戦略コンサルの仕事の内容や魅力、身につけられる力、ネクストキャリアなどについて解説してきました。戦略コンサル業界が、学生だけでなく、優秀なビジネスリーダーからも転職先として人気が高い理由が、お分かりいただけたかと思います。

現在、グローバル競争が激化する中、日本企業はさらなる経営改革に迫られています。しかし、社内には専門的な知見を持つ人材が不足しているのが実情です。そのため、戦略コンサルをはじめとするコンサル業界への相談は、年々増加の一途をたどっています。

一方で、この盛況がこれからも続いていくのか、心配になる人もいるでしょう。そこで今回は、戦略コンサル業界の将来展望について考えていきたいと思います。

戦略コンサル業界を左右する4つの潮流

まずは、現代の戦略コンサル業界を取り巻く4つの潮流を紹介します。

1. デジタル技術の活用

近年、ビジネス界ではデジタル技術の活用が急速に進んでおり、VRやAR、AI、メタバース、3Dプリンターなど、その範囲は多岐にわたっています。

これらのデジタル技術を活用することで、仕事の効率は飛躍的に向上しました。さらに、これまでは不可能だった新しいビジネスを立ち上げられるようになっています。

医療現場におけるAI診断の導入、農業や林業におけるドローン活用のほか、最近では、故人や往年の歌手をAIでメタバース空間に復活させるコンサートまで登場し始めています。このような新たなビジネスチャンスに対応するため、企業は戦略を講じる必要に迫られています。

「最先端のデジタル技術が新たなビジネスチャンスに」のイラスト

特に2020年代以降、ビジネス界においてAI活用に関する模索が急速に進んでいます。今後はさらに、AI活用に関するコンサルティングニーズが増加するでしょう。

また、コンサルタントの仕事にも、AIが活用されはじめています。近い将来、市場や競合の調査といったリサーチ業務はAIに任せ、コンサルタントは戦略立案やクライアント企業とのコミュニケーションなど、人間にしかできない仕事に注力できるようになるかもしれません。

2. 実行支援への要請と成果創出への期待

戦略コンサルと聞くと、「企業の戦略立案を支援している仕事」というイメージを持つかもしれません。しかし実際には、戦略コンサルは20年以上前から、戦略の提案のみならず、実行支援まで行なってほしいというクライアント企業の期待に応えてきました。

変革のスピードが加速する現代において、実行支援への期待はますます大きくなっており、その重要度はこれからも増すことでしょう。クライアント企業のビジネスの現場に入り、短期間で目に見える結果を出すことが期待されるようになっているのです。

「戦略立案にとどまらず、実行支援も期待されている」のイラスト

戦略立案から実行支援までを行う一気通貫型のプロジェクトがコンサルティングのスタンダードになる中で、戦略コンサルと総合コンサルの垣根がなくなりつつあります。大企業での実行支援プロジェクトにおいては、数十名~百名超のコンサルタントが必要となることも珍しくありません。そのため、コンサルタントの人数が多く、多様な領域の専門家を抱える総合コンサルは、実行支援において力を発揮しやすいと言えるでしょう。

今後、実行支援の局面において、戦略コンサルが総合コンサルに対して、どのように差別化を図り、優位性を築いていくのか要注目です。

3. サステナビリティ経営の推進

「サステナビリティ経営」や「SDGs」への対応が、日本においても急務となっています。サステナビリティ経営とは、環境・社会・経済に配慮し、それらのバランスをとりながら成長を目指すという経営スタイルです。企業の社会的責任と事業成長を両立させる考え方とも言えるでしょう。

いまや、環境(Environmental)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した取り組みを重視した「ESG投資」が、世界の運用資産の3分の1を占めるとまで言われています。日本においても、2023年1月からは、プライム市場の上場企業に対して、サステナビリティに関する情報の開示が義務化されました。

もはや、環境問題やダイバーシティ、ステークホルダーの人権尊重などに配慮していない企業は、資金調達や人材確保、顧客の獲得に苦しむというリスクを抱えることになるのです。

「SDGs、ESG投資への対応が前提に」のイラスト

今や企業に必須となったサステナビリティ経営ですが、それを推進できる人材が不足していることから、このテーマに関するコンサルティングファームへの依頼が急増しています。一方で、新しい領域であるため、十分な知見を持つファームとそうでないファームとの間に差が見られるのも事実です。

なお、サステナビリティ関連のプロジェクトが増加するコンサルティングファームやシンクタンクは、「社会課題解決を仕事にしたい」と考える人々から、就職先や転職先として高い関心を寄せられていくことでしょう。

4. 地政学リスクや国際経済など、マクロ視点の重要性

近年、米中対立の激化やロシアによるウクライナ侵攻、中東における政情不安など、地政学リスクが高まっています。地政学リスクとは、特定の地域における政治的・軍事的な緊張により社会情勢が不安定となり、その地域や世界全体の経済の先行きが予測しにくくなることです。ビジネスに与える影響も大きく、深刻な経営課題となっています。

グローバルにビジネスを展開している多くの日本企業にとって、地政学リスクは避けて通れないテーマと言えるでしょう。長年にわたり多額の投資をして、せっかく築き上げてきた現地の工場や物流・販売ネットワーク、人脈などが、現地から撤退することですべて無駄になってしまうからです。

「地政学リスクへの対応」というクライアント企業からの喫緊の要請に応えるため、コンサルティングファームでは、地政学や国際経済といったマクロ視点を持った専門家として、エコノミストやシンクタンクの研究員、行政機関の出身者などを抜てきしています。

「地政学リスクへ対応する人事」のイラスト

このようなマクロ的な視点からアドバイスを行なうためには、各国の政財界やエリート層とのネットワークを構築し、グローバルに情勢をモニタリングする必要があります。そのため、グローバル展開する大手ファームに優位性がある領域と言えるかもしれません。

戦略コンサル業界で活躍する先輩たちの声

実際に戦略コンサルで活躍している先輩たちは、業界の将来性やキャリアについて、どのように考えているのでしょうか。20代、30代の戦略コンサルタントの生の声をご紹介します。

「戦略コンサルで、女性は長く働けるのでしょうか?」と学生の皆さんから質問をよく受けます。今のコンサル業界は、働きやすい環境が整備されているので、基本的には大丈夫だと思います。ただ、プロジェクトの当たり外れがあるのも事実です。要望の厳しいクライアントの案件、慣れない新任マネージャーのもとでは、プロジェクトが混乱し、終電帰りやタクシー帰りが続くこともありますね。

 

戦略系ファーム マネージャー(30代後半 女性)

クライアントから私たちへの相談はいまだに多く、社内の稼働率は非常に高いです。そのため、新卒・中途ともに積極的な採用を行なっています。当面、この状況は続くと思います。

 

戦略系ファーム コンサルタント(20代後半 女性)

今後は、デジタル領域に強いファームや、AI開発などに大規模投資ができる総合ファームが強くなるでしょう。いずれは、総合ファームが戦略ファームを買収するなど、業界の勢力図が大きく変わるかもしれませんね。でも、戦略ファームで経験を積んでおけば、他ファームの高いポジションへの転職も可能です。個人的なキャリアへの心配は、あまりしていません。

 

戦略系ファーム シニアコンサルタント(30代前半 男性)

仕事でAIを使う機会がファーム内でも増えてきました。議事録の作成など、だいぶ楽になっています。今後、調査や資料作成などにも活用されるようになっていくでしょう。コンサル以外の業界もこれと同じような状況だと思いますが、AIにできるような仕事しかできない人材は、いずれ不要になっていくでしょうね。

 

戦略系ファーム アナリスト(20代後半 男性)

まとめ

今後も、人権や環境に関する国際ルールへの準拠や、量子コンピュータをはじめとする新たなテクノロジーの活用など、企業が対応に迫られる経営テーマが続々と登場してくるでしょう。

それに伴って企業からの依頼が増加し、コンサル業界の成長は当面続くと予想されます。一方で、最先端のテーマに対応するためには、ナレッジの蓄積や専門人材の確保などが必要不可欠です。それらへ先行投資する姿勢や資金面での体力などが、コンサルティングファームの明暗を分けることになるかもしれません。

戦略コンサルについて、全5回にわたりさまざまな角度から解説してきました。

経営戦略や新規事業、M&A、DX推進の戦略立案などの先端的な経営課題に関われる醍醐味をはじめ、高水準の報酬を得られる、経営幹部へつながる経験を積めるといった、戦略コンサルの魅力がお分かりいただけたかと思います。

戦略コンサルでの経験は、経営幹部を目指すうえでの「キャリアの高速道路」としても注目されます。将来、ビジネスリーダーとしていち早く活躍したいと考える皆さんには、有望なキャリアと言えるでしょう。

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