投資銀行における外資系・日系の違いと主要企業
投資銀行業界の歩き方

第3回 投資銀行における外資系・日系の違いと主要企業

投資銀行といえば、ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカのような「外資系」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、日本に本社を置く「日系」の投資銀行ももちろん存在しています。ただし、同じ投資銀行でも外資系と日系では組織や年収、得られるスキルなどに大きな違いがあるのです。

第3回では、こうした両者の違いや主要な企業について解説します。

「外資系」と「日系」の違いとは

「米系・欧州系・日経投資銀行の主要企業」についての図表

投資銀行における「外資系」は、さらに細かく「米国系」「欧州系」と分けることもできるものの、本記事ではまとめて「外資系」として扱います。これら外資系と日系の主な違いは次の3つです。

1. 組織

第2回で解説したとおり、投資銀行には「投資銀行部門(IBD)」「マーケット部門」「リサーチ部門」「アセットマネジメント部門」「ミドル・バックオフィス」といった部門を有し、企業や機関投資家などに対してサービスを提供しています。

外資系ではこうした投資銀行業務のみを行う金融機関が存在する一方で、日系では投資銀行業務のみを運営することはありません。後述する「代表的な日系投資銀行」の社名を見ていただければわかるように、大手の証券会社や商業銀行が、ビジネスの1つとして投資銀行業務を行っているのです。

2. 案件の規模

外資系と日系では、取り扱う案件について、次のような違いがあります。

「外資系と日系投資銀行での案件の違い」についての図表

このように、取り扱う案件の規模や、案件への取り組み方に違いがあり、それによって得られるスキルにも違いが出るのです。

また外資系は「クロスボーダー」と呼ばれる日本国内の企業と海外企業の間の売買取引が多いのも特徴です。一方で、日系では外資系より日本国内のビジネス慣習に対する理解が深いため、国内案件に強みがあります。

 

(30代後半 日系投資銀行勤務 男性)

3. 年収

投資銀行の年収は、「ベースサラリー(基本給)」および「インセンティブ(ボーナス)」の合計額です。この年収について、外資系に新卒で入社した際は1,000万円以上、日系の場合は500~750万円といわれています。

外資系のほうが高年収となる理由として、上表のとおり規模の大きい案件を少人数で取り扱うため、1人あたりの業務量が多く、それに伴い給与水準が高い面があります。また、外資系の方がインセンティブの比率が高く、会社の業績や個人の評価によってはインセンティブの額がかなり高くなるという点も理由の1つです。

代表的な外資系投資銀行

数多くの外資系投資銀行のうち、今回は代表的な9社を紹介します。

ゴールドマン・サックス

米国ニューヨークに本拠地を置くゴールドマン・サックスは、世界に4万5000人以上の従業員を抱え、約360兆円を運用する世界的な金融機関です。強みは徹底した合理主義にあり、リーマンショックの際には競合の投資銀行が次々と破綻するなか、相場に逆張りすることで利益を生み続けました。

同社は人材輩出企業としても知られています。経営者やコメンテーターとしてテレビ番組やネットニュースで同社の出身者をよく目にするのではないでしょうか。

モルガン・スタンレー

同社は世界42ヶ国に約8万人の従業員を抱える、代表的な投資銀行のひとつです。2010年には、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と合弁会社2社を設立しました。グローバルネットワークを有する外資系証券の「モルガン・スタンレーMUFG証券」と、国内最大の金融グループの証券会社「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」が連携することで、国内外様々なクライアントに対して豊富なサービスを提供しています。

同社の大きな特徴は企業文化にあり、世界100カ国10,000社以上の企業が参加するGreat Place to Work® Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」調査において、第1回から第17回(2007年~2023年)まで、17年連続で「ベストカンパニー」に選出されています。

J.P.モルガン

米国ニューヨークに本社を置くJ.P.モルガンは、100ヶ国以上で事業を展開し、世界中に24万人以上の従業員を擁しており、世界最大級の規模を誇る総合金融サービス会社です。日本では「JPモルガン証券」「JPモルガン・チェース銀行東京支店」「JPモルガン・アセット・マネジメント」「JPモルガン・マンサール投信」の4社が事業を展開しています。

同社は採用方針も特徴的です。“All Minds Wanted” という採用哲学には「どんな学部を専攻した人にもチャンスがある」という意味が込められており、バックグラウンドに関わらず多様な人材を歓迎しています。

バンク・オブ・アメリカ

米国ノースカロライナ州に本社を置くバンク・オブ・アメリカは、世界最大の金融機関の一つであり、個人、企業、機関投資家に対して、銀行業務、投資業務、資産運用業務、その他の財務管理及びリスク管理のための商品やサービスを幅広く提供しています。

日本においては、事業会社や金融機関などに対して、トレーディング、資本市場業務、投資銀行業務などを提供する「BofA証券」と、国際的に事業を展開する日本企業および外国法人の日本拠点を対象に、円・外貨口座開設、送金、信用供与、外国為替などの金融サービスを提供する「バンク・オブ・アメリカ・エヌ・エイ 東京支店」の2つの法人を通じて事業が展開されています。

同社の大きな特徴は、クライアントの幅広さにあります。米国においては、「米国フォーチュン1000」に挙げられるほぼ全ての企業と取引を行っており、グローバルにおいては、世界35ヶ国以上の事業法人、政府、機関投資家などにサービスを提供しています。

シティグループ

米国マンハッタンに本社を置くシティグループは、世界約160の国と地域で、個人、法人、政府機関などに幅広いサービスを提供している世界有数の金融機関です。1902年に横浜で日本初のオフィスを構えて以降、日本を代表する多国籍企業や、日本に進出している外資系企業、さらには日本に投資しているグローバル機関投資家まで幅広い顧客を支援しており、日本企業の「海外でのメインバンク」の役割を担う、といった関係を構築しています。

同グループの特徴はグローバルな事業基盤にあります。海外に事業展開した日本のクライアントに対して現地で支援を行う「ジャパンデスク」は現在11ヶ国にあり、進出先での事業展開をサポートしています。

UBSグループ

スイスのチューリヒおよびバーゼルに本店を置くUBSは、スイス最大の銀行であり、50以上の国や市場で個人、法人、機関投資家に対し金融サービスを提供しています。日本においては1960年代半ばに営業拠点を開設して以降、現在では「UBS証券」「UBS銀行東京支店」「UBSアセット・マネジメント」「UBSジャパン・アドバイザーズ」「 UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント」の5法人を通じて幅広い事業を展開しています。

同グループの特徴は富裕層向けのウェルス・マネジメント業務にあり、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントは、英金融誌ユーロマネーによるユーロマネー・プライベート・バンキング調査2024において、日本の外資金融機関におけるベスト・プライベートバンク1位を受賞しています。

ドイツ銀行

フランクフルトに本社を置くドイツ銀行は、世界約60ヶ国において事業を展開している、ドイツ最大の銀行です。日本においては1872年にドイツ銀行初となる海外拠点を横浜に置いた後、現在は「ドイツ証券」「ドイツ銀行東京支店」「ドイチェ・アセット・マネジメント」の3社を通じて事業展開をしています。

同社は企業責任として「地域社会と経済の繁栄」を確固たる信念として掲げており、若者の能力開発支援や慈善団体への寄付活動など、様々な市民社会活動を通して地域社会に貢献し続けています。

バークレイズ

英国ロンドンに本社を置くバークレイズは、イギリスを中心に展開する世界有数の金融機関です。2008年の金融危機にて、リーマン・ブラザーズの北米事業を傘下に収め、グローバル金融機関へと成長を遂げました。

日本においては、「バークレイズ証券」が証券業務、「バークレイズ銀行東京支店」が銀行業務、「バークレイズ投信投資顧問」が投資信託に係る運用業務を展開し、国内トップクラスの投資銀行として資本市場業務をグループで包括的に支援しています。

同社は競争力を活かした商業的利益を提供する一方で、企業市民活動を積極的に行っています。同社がこれまでの歴史で培ったノウハウを活かし、市民の雇用機会や金融、デジタル商品へのアクセスを支援することで、社会の革新と成長の促進に取り組んでいます。

ラザードフレール

ラザードは世界27ヶ国43都市を拠点に、ファイナンシャル・アドバイザリーおよびアセット・マネジメントを提供する、世界有数のアドバイザリーファームであり、ラザードフレールはファイナンシャル・アドバイザリー部門に属しています。日本においては、1989年の設立以来、グローバルなプラットフォームと同社の強みであるM&Aの豊富な知見を活用した支援を行っています。

同社の特徴は世界有数の「独立系」投資銀行であることで、資金調達部門やトレーディング部門を持たず、M&Aのアドバイザリーに特化した投資銀行業務を展開しています。

代表的な日系投資銀行

日系投資銀行大手は、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の5社が挙げられます。ここでは特に3社について詳しく紹介します。

野村證券

日本を代表する証券会社である野村證券は、野村グループの持株会社「野村ホールディングス株式会社」の100%子会社であり、野村グループの核である「証券業務」を担う中核会社です。1925年に誕生して以降、国内のみならず世界約30の国と地域を拠点に展開しています。

投資銀行部門としては国内最大手で、さまざまな規模の案件実績があるほか、日本企業と海外企業間での案件の取り扱いも豊富であり、外資系に劣らない経験ができる点が魅力です。若手社員の成長を会社全体でサポートする風土があり、優秀な人材が多く、収入も日系投資銀行の中ではトップクラスを誇ります。

SMBC日興証券

SMBC日興証券は、三井住友銀行(SMBC)の完全子会社である総合証券会社です。2009年にSMBCグループへ入り、旧四大証券会社とメガバンクが組む、これまでにない独自のビジネスモデルを構築してきました。そのため、多様な人材と蓄積された経験による幅広いサービスの提供が大きな強みとなっています。

投資銀行部門においては、社員向けの教育制度が充実しており、優秀な若手は提携先である米国のジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのニューヨーク研修に参加できる仕組みがあります。また成績によっては入社3年目から「特定専門職」という年俸制のコースに移行でき、非常に高い収入を得ることも可能です。

みずほ証券

みずほ証券は、みずほフィナンシャルグループの完全子会社である総合証券会社です。同社の強みは、グループの専門機能を結集したフルラインの金融ソリューションが提供可能である点です。銀行系証券の特徴を活かし、銀行・信託・証券、アセットマネジメント、シンクタンクなどのさまざまな機能を結集することで、クライアントに対して幅広いサービスを迅速に提供しています。

投資銀行業務においては、みずほ銀行の取引先企業の案件が流入してくることも多く、規模の大小を問わず、さまざまな企業の買収・売却案件の経験を積める点が特徴のひとつです。

今回は投資銀行における外資系と日系の違いや、それぞれの代表的な企業について紹介しました。第4回では外資系投資銀行でのキャリアパスや社員のライフスタイルなどをお伝えします。

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