第6回 投資銀行のネクストキャリア
前回の記事で紹介した、投資銀行の仕事を通じて身につくスキルは、他の業界でも活かしやすいものです。実際に、投資銀行で経験を積んだ人材は、社内で昇進していくだけでなく、PEファンドや事業会社など、さまざまな業界で活躍しています。
そこで今回は、投資銀行経験者の代表的なネクストキャリアについて解説します。
※今回の記事では、投資銀行の中でも、企業の買収や資金調達を支援する「投資銀行部門(IBD)」を中心に扱います。
投資銀行経験者の代表的なネクストキャリア
投資銀行経験者のネクストキャリアは幅広いですが、ここでは、代表的な選択肢である金融機関・投資会社、事業会社、起業の3つに分けて見ていきましょう。
①金融機関・投資会社への転職
投資銀行の経験を活かしやすいのは、やはり他の金融機関や投資会社です。その中でも以下のようなキャリアパスは人気が高いと言えます。
(1) PEファンド
投資銀行経験者から人気の転職先の一つが、PEファンドです。
PEファンドは「プライベート・エクイティ・ファンド」の略称で、投資家から集めた資金を運用し、得た利益を投資家に分配する投資ファンドの一種です。具体的には、経営の見直しによって収益が見込めそうな企業を買収して株主となり、経営の改善に取り組みます。その結果として価値の高まった企業の株式を売却することで、利益を得るというビジネスモデルです。
PEファンドでは、企業の株式を買収する際に財務モデルの作成や企業価値の評価を行うため、投資銀行で培ったスキルを即戦力として活かせます。それ故に、PEファンドにおいて、投資銀行経験者のニーズは最も強いです。
PEファンドの魅力の一つとして、「当事者として企業価値の向上に関われる」という点が挙げられます。株主として投資先の企業に入り込み、あらゆる経営課題に対応する必要があるのです。責任は重大ですが、若くしてこうした経験を積めるのは貴重だと言えるでしょう。
また、年収面や働きやすさの面でも、投資銀行に比べて魅力的な面もあります。PEファンドの仕事内容やキャリアについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
(2) 他の投資銀行・証券会社
別の投資銀行に転職するケースも比較的多いです。たとえば、報酬水準や取り扱う案件の規模を上げる目的で、日系から外資系へ移るパターンがあります。一方で中長期的にキャリアを築くため、解雇リスクのある外資系から日系に移るケースもあるようです。
投資銀行間で移籍する場合、同じ部門での転職が多く、それまで培った専門性を強みとしながら、自身の志向によりフィットした環境を選べるのが利点となります。投資銀行の仕事そのものに魅力を感じ、長期的に関わりたい人にとっては、同じ業界内での転職は自然な選択の一つと言えるでしょう。
(3) ベンチャーキャピタル(VC)
VCは、投資家から集めた資金をもとに、スタートアップ企業へ出資し、企業価値の向上を通じてリターンを得る投資ファンドを指します。投資先としては創業してまもない初期から、成長期にある上場前の企業が中心です。そうした企業が将来的に上場したり、大手企業に売却されたりすることでVCは利益を得ています。
VCの業務でも投資銀行の経験は活かしやすいです。たとえば創業してすぐの企業であっても、さまざまな数値データを分析し、ビジネスが成功しそうか否かを判断します。また上場に近い段階になると、財務状況の分析も求められます。こうした数値分析のスキルは、投資銀行経験者に期待されるところです。加えて最終的な上場や売却の段階でも、金融マーケットにおける豊富な経験は重宝されるでしょう。
VCの魅力は、他のファンドと異なり、これからの社会をリードする企業やテクノロジーに、早い段階から関われることが挙げられます。また、投資先が上場した場合などにキャリーと呼ばれる成功報酬を得られる可能性があり、成果次第で給与も高水準となります。VCの仕事内容や魅力についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
(4) ヘッジファンド
ヘッジファンドとは、株式や債券、通貨など、あらゆる金融商品に投資し、マーケットの浮き沈みに関わらず絶対的な利益を追求するプロフェッショナル集団です。何よりも顧客から預かった資産を積極的に増やすことを使命としています。
ヘッジファンドの業務では、「この株は割安か、割高か」という投資判断が必要になります。そのため、投資銀行で培った財務分析の能力や、特定の業界に関する専門性を活かしやすく、実際に転身する事例も少なくありません。
投資銀行は企業の買収や資金調達について「アドバイスする」立場である一方、ヘッジファンドは自分自身が投資判断を下す「意思決定者」です。すべての判断が自己責任となり、その結果が業績にダイレクトに反映される点は、やりがいの一つとなるでしょう。
(5) アセットマネジメント
アセットマネジメントは資産運用会社とも呼ばれ、年金基金や保険会社、個人投資家などから資産を預かり、株式・債券・不動産などを対象に比較的長期の投資や運用を行っています。「お金を育てるプロ」として、顧客の将来に向けた資産形成を支援するのが使命です。
実際の業務では、株式や債券への投資に際して、企業のリサーチや財務分析を行う必要があります。こうした業務は投資銀行での経験が活かしやすいです。また、機関投資家や企業の経営陣とのコミュニケーションを重ねてきた経験も役立つでしょう。
アセットマネジメントのやりがいの一つは、ヘッジファンドと同様、投資の意思決定に関わる点です。特に短期的な利益追求ではなく、より長期的な目線に立って投資判断を積み上げていくことができるのは魅力となるでしょう。
また報酬の面も恵まれており、特に外資系アセットマネジメント会社の場合、投資銀行と遜色のないレベルといえます。その上で投資銀行ほどのハードワークではないため、比較的安定したワークライフバランスを保ちながら高い報酬を得られる点に惹かれる方も多いです。
また年収面も魅力となります。若手アナリストでも1000万円〜数千万円が相場で、運用成績に連動したボーナスによって、ファンドの責任者であるポートフォリオマネージャーでは年収が数億円に達するケースも珍しくありません。
このように、他の金融機関・投資会社への転職では、投資銀行で得た基礎力を活かしやすい領域です。ただし、それぞれの仕事で求められる視点は異なるため、自分の関心や適性に合っているかを見極めることが大切になります。
②事業会社への転職
事業会社とは、自社で商品やサービスをつくり、販売している会社で、たとえば、自動車や食品などのメーカー、小売、商社、ITサービスなどが挙げられます。投資銀行を経験した後に、このような事業会社で活躍する事例も多いです。ここでは「大手事業会社」「ベンチャー・スタートアップ」という2パターンを紹介します。
(1) 大手事業会社
売上や人員の規模が大きく、就活でも人気の大手企業において、投資銀行の経験者のニーズは高まっています。多くの企業が成長を目指す中で、企業の買収や統合といった手段が当たり前になっており、投資銀行での経験が活かしやすいからです。
特に、会社全体の戦略づくりを担う部門である「経営企画」においては、5年後や10年後を見据えて、企業の買収や新規事業への投資を検討するため、投資銀行の経験が重宝されます。また資金の調達を担う「財務」の部門においても、金融マーケットでの経験が役立つでしょう。
さらに近年、多くの大手企業が「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」を設立しています。CVCは、事業会社が自社の成長のためにスタートアップに出資する組織のことです。こうした組織においては、VCと同様のスキルが求められるため、投資銀行経験者の需要が高まっています。
大手事業会社の場合、投資銀行と比べると、どうしても報酬面で見劣りするケースは多いです。一方で総合商社などの場合、30代の経験者採用では1500~2000万円前後のオファーも珍しくありません。また投資銀行と比べてワークライフバランスは格段に確保しやすく、長期的に安定して仕事に取り組みたい方には適する環境と言えます。
(2) ベンチャー・スタートアップ
急成長するベンチャーやスタートアップにとって、「資金の調達と管理」は会社の存続を左右する最重要課題です。そのため財務の責任者であるCFO(Chief Financial Officer)の採用に多くのベンチャー・スタートアップが真剣に取り組んでいます。
その有力候補として白羽の矢が立つのが投資銀行経験者です。特に、資金の調達やIPO(株式公開)の実務経験があること、投資家とのコミュニケーションスキル、財務分析を踏まえた事業計画の構築力などが評価されます。
ベンチャー・スタートアップのCFOの役割は、単なる「お金の管理」ではありません。資金の調達をはじめ、銀行との交渉や投資家対応、IPO準備など、会社の未来に直結するあらゆる財務面での意思決定を担います。どんなに良いビジネスであったとしても、資金が不足すれば会社を畳むことになってしまうので、CFOの重要性は非常に高いと言えます。
また報酬面について、近年は年収1500万円前後のポジションも増えていますが、投資銀行の高年収には及ばないケースも少なくありません。しかし、その代わりに用意されているのが「ストックオプション(SO)」です。
これは、会社の株式を将来あらかじめ決めた価格で購入できる権利のことで、もし会社がIPOを果たした場合、数千万円〜数億円規模の利益を得られる可能性があります。目先の年収より将来のアップサイドを取るというのが、スタートアップCFOの報酬の醍醐味です。
③起業
投資銀行経験者の中には、ケースとして多くはないものの、起業という道を選ぶ人たちもいます。実際に、経済メディア「NewsPicks」などを運営する株式会社ユーザベースや株式会社ビズリーチ(現・ビジョナル株式会社)など、皆さんも一度は目にしたことがあるサービスの創業メンバーには、投資銀行出身者が名を連ねています。
スタートアップCFOのキャリアでも触れた通り、投資銀行経験者は資金調達の経験など、財務の専門性を活かしやすいです。また大企業の経営陣と対等に渡り合う場面が多いことも、起業後に投資家や取引先を説得する場面で活きるでしょう。
他方で、投資銀行で身につくスキルだけでは対応しきれない要素も多くあります。そのため、不足する経験やスキルを補う仲間と共同で創業するパターンや、事業会社で経験を積んだ後に起業をするケースも多いです。どういった形での起業が自分に合っているかを見極めることが重要だと言えます。
まとめ
今回は、投資銀行経験者の代表的なネクストキャリアについて紹介しました。
投資銀行で身につく力は、PEファンドをはじめとした金融領域や事業会社、起業など、さまざまな場面で活かすことができます。一方で、どのキャリアパスが合うかは、「どのような立場で仕事に関わりたいか」によって変わります。
投資銀行を志望する際には、入社後の働き方だけでなく、その先に広がるキャリアにも目を向けてみるとよいでしょう。
第7回では、投資銀行業界に関して、学生の皆さんが抱きがちな疑問にQ&A形式でお答えします。