第2回 総合商社の仕事とは
第2回は総合商社の仕事内容について、より詳細に解説します。
前回の記事では、総合商社の仕事内容として「トレーディング」と「事業投資」の2つがメインであると紹介しました。今回はそれぞれの特徴や具体的な取り組みについて整理していきます。
トレーディング
トレーディングは、総合商社におけるビジネスの原点であり、現在に至るまで重要な役割を担っています。
第1回では、トレーディングについて、「製品やサービスを売りたい企業と買いたい企業の仲介」と解説しました。ビジネスモデルとしては、企業間のやりとりを円滑に仲介することに対する手数料が収益源となりますが、単なる「仲介」であれば、多くの企業が対応できるでしょう。総合商社が手掛けるトレーディングには、以下のような特徴が挙げられます。
国や社会への貢献度の高さ
前回も触れた通り、総合商社はトレーディングを通じ、日本の高度経済成長期に大きく貢献してきました。そして、日本が先進国となって以降も、総合商社は日本のビジネスの発展に大きく影響しています。
たとえばアジアやアフリカなど、日本のメーカーが独力では進出が難しい地域において、既に拠点を有している総合商社が、現地でのビジネス開拓を支援してきました。
また日本はコメ以外の穀物について、ほとんどを輸入に頼っています。さらに石油や天然ガスをはじめとした資源についても同様です。こうした日本のビジネスや生活に不可欠な要素について、安定供給が出来るよう、総合商社は重要な役割を果たしているのです。
円滑な取引を支えるさまざまな機能
特に海外とのトレーディングにおいては、安全な物流網の確保、商品に万一の事態があったときのための保険、現地でのトラブル時の緊急対応など、さまざまなサポートが必要となります。
総合商社では、こうしたサービスを包括的に提供可能です。たとえば保険については事故に備える海上保険や、取引先の国や企業に不安がある際に活用する貿易保険など、幅広いソリューションを用意しており、保険単独でのビジネス展開も行っています。
取引をする企業にとって、総合商社のサポートは心強く、トレーディングにおいて欠かせない存在といえるでしょう。
事業投資
近年、総合商社が注力しているのが事業投資です。「投資」というと投資銀行やPEファンドのような金融機関が担っているイメージがあるかもしれません。総合商社の事業投資における特徴は以下の通りです。
自社ビジネスの成長に向けた投資
金融機関の行う投資は「結果としてリターンが見込めるか」が重視されます。さまざまな企業から資金を集めていることもあり、収益が回収できることが重要です。
一方で総合商社の事業投資では、目先の収益よりも、彼らの手掛けるビジネス全体の成長を重視します。たとえ現時点で収益性が低そうな企業だとしても、他のビジネスとの相乗効果(シナジー)が見込めれば投資を行うのです。
たとえば、多くの総合商社でコンビニへの投資を行っていますが、これはコンビニ単独での収益を見込んでいるだけではありません。総合商社は畜産業なども手掛けており、それを原料としてコンビニで商品を展開すれば、より高い収益が期待できます。このようにビジネス全体の流れを踏まえた上で、投資を行うのが特徴の一つです。
経営への関与
総合商社が事業投資を行う場合、「資金を提供するだけ」ということはありません。多くの事業投資においては、ビジネスの拡大に向け、自社のあらゆるリソースが投入されます。
わかりやすい事例が「人材」です。第1回で取り上げた通り、総合商社は多くの経営人材を育成しています。そうした人材を投資先の企業に派遣して、深く経営に関与させるのです。十分に育成され、多くの知識・ノウハウを有する人材が経営を担うことで、投資先の収益改善も可能になっています。
なお、こうした経営人材の派遣は、総合商社だけではなく、PEファンドにおいても取り組んでいます。他方で総合商社では、最終的に企業を売却することを前提としておらず、長期的に経営に関わる点が異なるといえるでしょう。
まとめ
総合商社は、長年続けてきたトレーディングに加え、資金力・グループの総合力をいかして事業への投資を行うことで、独自の価値をつくりあげて利益を生み出しているのです。
次回は、こうした総合商社のビジネスを支える組織構造について解説します。
新卒で三菱商事に入社し、自動車および食品事業の事業開発を担当。海外留学や現地での新会社設立支援などを経験。外資系戦略ファームのベイン・アンド・カンパニーを経て、コンコードに参画。コンサルのほか、総合商社に関する支援で豊富な実績がある。