戦略コンサル、外資系企業の幹部などへ1000人を越えるビジネスリーダーの転職を支援したキャリア設計の専門家。経営するコンコードでは、社会人へのキャリア支援・学生へのキャリア教育などを通じて、豊かな社会づくりを目指している。また、これまで多数の長期インターン生を受け入れ、学生のキャリア形成支援にも努めている。
内定後の長期インターンで払拭した「いきなり社会に出る怖さ」
長期インターンは、社会人としての基礎スキルや仕事に取り組む姿勢を身につける、絶好の機会です。この経験は、単に就活に役立つだけではなく、社会人生活のスタートダッシュを切る上でも大いに活きてきます。内定を獲得した後に、社会に出るための“助走”として、長期インターンに参加するのもお勧めです。
今回は、就活を終えた4年生時に長期インターンを始めた嶋崎天雄さんと、インターン先の株式会社コンコードエグゼクティブグループ 渡辺秀和代表に、「働く」ということの面白さや、就職までに取り組んでおくべき準備について、CareerPod編集部がお話を伺いました。
慶應義塾大学商学部商学科卒業。在学中に、社会人の転職を支援するコンコードでの長期インターンに参加。
2018年に同大学を卒業後、外資系組織・人事コンサルティングファームのマーサージャパン株式会社に入社。経営戦略を実現するための組織再編支援、経営人材の持続的創出に向けたサクセッションプランニング全般の構築支援などのプロジェクトを担当している。
やりがいは「クライアントが変わった瞬間」
――はじめに、嶋崎さんの学生時代と現在のお仕事について教えてください。
長期インターン経験者 嶋崎さん:
大学での専攻は経営戦略・組織戦略でした。なかでも、組織の不正や不祥事を防ぎ、公正な経営がなされるよう統治する「コーポレートガバナンス」や、M&Aによる企業成長について、専門的に研究していました。代々経営に携わる家庭で育ったこともあり、父や祖父から「企業経営で一番難しいのは、人や組織をどう動かすか、どう統治するかだ」と、幼少の頃から聞いていましたし、ずっと関心を持ってきました。
大学卒業後は、そのような企業経営の“要”であるコーポレートガバナンスに関われる、組織人事コンサルティングファームのマーサージャパンに就職しました。
現在は、クライアント企業のパーパスやミッション、ビジョン、バリューをつくり、社内に浸透させるプロジェクトに参画しています。クライアントの経営陣と議論するので、高い視座が求められる仕事です。企業の未来を見据えた刺激的な話が飛び交うので、とても面白いです。
――非常に楽しそうなプロジェクトですね。嶋崎さんはどのようなときに一番やりがいを感じられますか?
嶋崎さん:
社会に出てから気づいたのですが、自分が勤める会社を「大好きだ」と思える人は、残念ながら少数派のようです。
先ほどお話ししたプロジェクトを進めていくと、仕事への取り組み方が積極的になったり、周囲との協働が盛んになったりと、クライアント社員の姿にポジティブな変化が起きてきます。組織が良い方向に変わることを期待していた社員の皆さんが、実際に変化した会社の良さに気づき、会社を好きになっていく。このようにクライアントのマインドが変わっていく瞬間に立ち会えると、とても大きなやりがいを感じます。
インターン先企業 ㈱コンコード 代表取締役CEO 渡辺さん:
よくわかります。私もコンコードエグゼクティブグループ(以下、コンコード)を立ち上げる前は、経営コンサルティング業界にいました。クライアントの皆さんに、仕事の面白さや醍醐味を体感していただけたときは、大きなやりがいを感じました。
あるプロジェクトで、クライアント企業に新規事業を提案しました。ところが、クライアントは、その戦略どおりに事業を立ち上げていく勇気や確信を持てずにいました。そこで私は、クライアント社員の方々と一緒に新しい事業の試作品をつくり、一緒に営業に行ったのです。実際に受注に漕ぎつけたときは、クライアント企業の役員が、その事業の社会的意義や新しいビジネスをつくる楽しさを、とても熱く語っていたのが印象的でした。初受注後の打ち上げは、涙あり笑いありで、深夜まで大盛りあがりでした。それを見て、本当に嬉しくなりましたね。
嶋崎さん:
徹底的に考えて練り上げた提案がクライアントに“刺さったとき”は、やはり楽しいですよね。
渡辺さん:
多少仕事がハードでも、疲れが吹き飛びます。コンサル業界に限らず、このような経験ができるのが“働く”ということの醍醐味の一つだと思います。
「いきなり社会人になる怖さ」から長期インターンに
――内定が出てから社会人になるまでの間は、どのような準備をされたのでしょうか?
嶋崎さん:
4年生になってから、渡辺さんが代表をされているコンコードの長期インターンに参加させていただきました。コンコードは、ビジネスリーダーのキャリアコンサルティングや転職の支援を行っている企業です。
――就活が終わって羽を伸ばしたいと思う学生も多いなか、なぜ嶋崎さんは長期インターンに参加しようと思ったのでしょうか?
嶋崎さん:
スキルも心構えも整っていない大学生が、いきなり社会人になることへの怖さがありました。そのため、しっかりと仕事に取り組んでいらっしゃる方と、同じ目的に向かって一緒に働くという経験を積みたいと考え、長期インターンに応募したのです。
渡辺さん:
入社企業が決まった後で長期インターンに参加する学生は、当時ではとても珍しかったです。「かなり視座が高い学生が来たな」と思ったのをよく憶えていますね。
インターン生 嶋崎さん:
社会に出た際の立ち上がりをスムーズにしたい、という思いがありました。また、社会人としての基礎力を習得しておくことは、入社後に訪れるかもしれない、さまざまなチャンスをつかむうえで武器になるのではと考えたのも、応募した理由のひとつです。
――コンコードの長期インターンでは具体的にどのような仕事をしていましたか。
インターン生 嶋崎さん:
ひとつは、クライアント企業へのインタビュー記事を作成する業務です。インタビューに同行したうえで、文字起こしや文章作成を行いました。インタビュー記事という、会社にとって重要な“商品”をつくるプロセスに関わることができたのは、良い経験でした。また、Webサイトに掲載する求人情報の作成とリリースも、日常の業務として担当しました。
インターン先社長 渡辺さん:
社会人で求められる「ビジネスライティング」は、大学における論文作成のスキルとは異なります。読者のバックグランドや心理などを考慮したうえで、インパクトを与えていくことが目的です。ビジネスライティングの経験は、嶋崎さんがコンサルティングファームに入社した後の資料作成にも活きたのではないでしょうか。
インターン生 嶋崎さん:
おかげさまで、上司から、作成する文書を褒められることがあります。また、シーンに応じて適切な言葉を選ぶ経験は、クライアントとのコミュニケーションの場でもすごく活きています。実際のビジネスで必要となる大切なスキルを、コンコードでの長期インターンで鍛えていただけました。
インターン先社長 渡辺さん:
基礎的なビジネススキルを身につけているのは、とても大切なことです。周囲からの評価が上がると、働くことが楽しくなります。すると、さらに仕事に打ち込めるようになり、ますます高い成果をあげられる。このような「良循環」に乗ることがとても大事です。社会に出て、楽しく活躍し続けるための鍵となります。
――ライティング以外では、長期インターンのどのような経験が社会で役立ちましたか。
インターン生 嶋崎さん:
日々、転職の相談を受けているコンコードの皆さんからお聞きした、ビジネスの現場にまつわる話はとても面白かったです。そのなかで「ご相談者の想定になかった企業をご紹介したところ、めでたく入社に至った」というエピソードを伺ったことがありました。ご相談者の思いに寄り添いつつ、本人も気づいていない価値観や志向を見極めて、深い気づきを与える仕事をしていらっしゃるのだなと、強く感銘を受けました。
インターン先社長 渡辺さん:
私たちの仕事は“ご用聞き”にならず、ご相談者に対して“愛情深いこと”を重要視しています。もちろん、ご相談者の要望を聴くことはとても大切です。しかし、自分の将来像をクリアに描けているご相談者ばかりではないですし、さまざまな業界のキャリアに詳しい人は限られます。私たちはキャリア設計のプロとして、ご相談者にとって適切だと判断したキャリア戦略を、しっかりと提案することを大切にしています。「もしかしたらご相談者とコンフリクトが起こるかも知れない」という不安を乗り越えて、相手のために愛情深く関わることが重要です。大切な家族にアドバイスするときの姿勢と同じです。これは、医師や弁護士、経営コンサルなど、プロフェッショナルサービス全般に言えますね。
インターン生 嶋崎さん:
コンコードの皆さんは「このご相談者の本質は〇〇だ」と、一人ひとりの悩みや問題点を的確にとらえたうえで、キャリア支援に取り組まれていました。そのようなプロフェッショナルの方々から仕事の話を聞けるのが、とても面白く、刺激になりました。
――ちなみに、嶋崎さんはアルバイトの経験もあったと伺っています。長期インターンとはどのような点が違うのでしょうか。
インターン生 嶋崎さん:
Apple社でアルバイトをしていましたが、振り返ってみると、会社の利益を第一に考えて行動していたわけではなかったと思います。自分の成績が給与やインセンティブに反映されるため、そこにモチベーションがありました。
一方、長期インターンでは、お金を稼ぐというよりも、「いかに会社の利益になるように行動するか」という視点を持って、業務に取り組むことができました。会社の利益をきちんと考え、社員と同じ目線でビジネスに向き合える経験のほうが、社会人の準備としては有益です。アルバイトをする時間があるなら、長期インターンをするほうが良いと思います。
大学4年生が「最もサボってはいけない1年間」な理由
――社会人として、今、どのようなことを心掛けていますか。
嶋崎さん:
自分の希望するプロジェクトに配属されるように努めています。
もちろん、単なるわがままではいけません。仕事でしっかり成果を出して周囲から信頼されなければ、自分の意思でプロジェクトを選ぶことはできません。やりたいプロジェクトに配属されれば、仕事へのモチベーションも高まり、先ほど渡辺さんがおっしゃった「良循環」に入りやすくなります。
渡辺さん:
「この人には任せても大丈夫だ」と信頼されなければ、重要な仕事は与えられません。意外と学生の皆さんは知らないのですが、周囲から信頼されるかどうかの見極めは、実は配属前から始まっています。
多くの企業では、入社前研修や新人研修でのスタンス、成績、性格、特性などもよく見ていて、それに応じて新入社員の配属先を検討しています。「配属ガチャ」という言葉もありますが、きちんとした評価や適性の確認に基づいてファーストアサインがされているので、単なる“運”などではないのです。
嶋崎さん:
他企業に入社した大学の同期から、同じような話を聞きました。彼らも内定後からずっと評価されていたそうで、入社前研修での質問の鋭さなども評価項目だったと聞きます。内定者研修を面倒くさがる学生もいますが、そのようなスタンスだと「仕事を軽んじる可能性がある人」という評価がなされ、入社後の最初のアサインに影響が出てきます。
渡辺さん:
内定を獲得するのがゴールではなく、そこからが本当のスタートですからね。
嶋崎さん:
本当にその通りで、4年生は「大学で最もサボってはいけない1年間」だと私は思います。
4年生になると、就活も終わり、部活やサークルでも一線を退くことで自由な時間ができるので、つい緩みがちです。その意味でも、就職先が決まった段階で、自分に必要な経験やスキルを獲得できる企業の長期インターンに参加することを、学生の皆さんにおすすめしたいと思います。
渡辺さん:
「社会人になると忙しいから、学生のうちにできるだけ遊んでおいた方がいいよ」とアドバイスする先輩社会人を時々見かけますが、要注意です(笑)。実際には、4年生での時間の使い方が、その後のキャリアに大きな差を生みますからね。
学生時代に磨くべき「ロジ力」
――長期インターン以外にも、社会に出るための準備として学生の皆さんにお勧めしたいことはありますか。
嶋崎さん:
知識は入社してからでも習得できるので、学生のうちは”経験”を優先するのが良いでしょう。具体的には、「ロジ力」を鍛える経験をしておくことが大切だと思います。
――ロジスティクス(Logistics)力、つまり準備や段取り力ということですね。どのような経験で鍛えられるのでしょうか?
嶋崎さん:
在学中に所属していたゴルフ部で、私は、OB・OGを集めたゴルフコンペの企画を担っていました。先輩たちと最も頻繁にコミュニケーションをとる役割です。
例えば、OB・OG会を開くときに、先輩たちが楽しめるように企画のコンセプトを考えます。そして、開催通知の回収率の目標を立てて、それを実現するための施策や実施時期などを計画します。そのためには、目標達成のためにやるべきことを、逆算して考えていく必要があります。また、開催の通知漏れが生じないよう、数字の間違いや抜け漏れを丁寧にチェックすることも大切です。このような経験を通じて、「ロジ力」はかなり鍛えられたと思います。
ロジができるようになると、先々を見通せるようになり、自分がいま何をやるかについても明確になるのです。
渡辺さん:
それはとても貴重な経験ですね。どんな仕事にも「ロジ力」はつきもので、仕事がデキる・デキないに直結する極めて重要なスキルだと思います。
上司から見ても、「ロジ力」がある人にはすごく安心感があります。関係者が何を望んでいるかを把握できているので方向性にズレがないし、プロジェクトの進捗についても、こまごまと心配しなくて済みます。上司としては、そういう人に大きな仕事や大事な案件を任せたいと考えるものです。
嶋崎さん:
そうだと思います。入社当初は、パッケージ化された大きな仕事の、一部分の業務だけを振り分けられます。ところが、「あいつにはロジ力がある」と上司から評価されると、パッケージ化された状態で仕事を任されるようになります。そうすると、仕事全体を俯瞰できるので、自分なりの付加価値も出しやすくなります。
「ロジ力」は、本を読んで一朝一夕に身につくものではなく、習練によって得られます。私の場合は、大学での部活やコンコードの長期インターンで鍛えることができたと思っています。
渡辺さん:
ある外資系戦略コンサルのパートナー(共同経営者)から聞いたのですが、そのコンサルでは、育成のために、新人に社内パーティーの幹事を担当させているそうです。「その時の取り組み姿勢によって、将来伸びるかどうかもわかる」とも語っていました。イベントや宴会の幹事は、「ロジ力」が問われる難しい仕事です。単なる雑務ではなく、自身の成長の好機と考えられるかどうかで、だいぶ違ってくるでしょう。
嶋崎さん:
「ロジ力」を要する仕事が回ってきたら、むしろチャンスです。一見、雑務と思われがちですが、企業体質の古い・新しいにかかわらず重視されている大事な仕事だということを、学生の皆さんに知っておいていただききたいですね。
社会を良い方向へ「傾けられる」存在に
――将来のビジョンがあれば、教えてください。
嶋崎さん:
企業を経営したいという想いはあります。これまでさまざまな機会に恵まれ、経営に関する多様なインプットを得ることができました。それをアウトプットするための場として、自分で人材や資金を動かせる組織を持ち、新しい事業をやってみたいと考えています。そして、これまでにないような問いを世の中に投げかけることで、社会を少しでも良い方向へ「傾けられる存在」になることを目指しています。
渡辺さん:
「傾けられる」の意味するところはどのようなことですか?
嶋崎さん:
スティーブ・ジョブズやウォルト・ディズニーのように、“世界を変える人”っているじゃないですか。さすがにそれほどの偉業を成し得る人は、かなり限られていると思います。しかし、特定の領域や産業を少し良い方向へ“転換させる人”ならば、たくさんいると思うのです。
私も、そのような取り組みをしたい。会社員として組織に属しているとなかなか難しいので、自分で企業を経営したいという考えに至りました。
特に興味があるのはバーチャルリアリティの領域です。今後、リアルな社会が縮小し、メタバースなどといったバーチャルな世界が広がっていくと考えています。現在はSNSの中で自分の世界を持っている人が多いですが、バーチャルな世界に自分の分身のようなものが存在して、そこでさまざまな経験ができるという時代になってくると思います。
一方で、日本酒や甲冑など、海外ではまだ十分に広まっていない日本の伝統やプロダクトを世界に届ける仕事にも、興味があります。
渡辺さん:
面白そうですね。日本国内だけでなく世界市場を対象にすれば、事業として成功する可能性も高まりますし、日本経済の活性化に寄与しますね。
嶋崎さん:
冒頭にご紹介した、クライアント企業のパーパス策定のプロジェクトでは、「この企業は何のために存在しているのだろう」というところまで深く掘り下げて考えます。自分が将来つくる会社でも、このパーパスを大事にしたいです。お金儲けだけではなく、社会的に意義がある事業をやりたいと、強く想っています。
――それでは最後に、学生の皆さんへメッセージをいただけますか。
嶋崎さん:
できる限り早く、社会人になる準備を始めるに越したことはないと思います。今自分が打ち込めるものがあるなら、それに没頭する。やりたい仕事や、なりたい将来像が明確に決まっているなら、長期インターンを活用して、それに少しでも近づいていく努力をする。いずれにしても、さまざまな選択肢が用意されているファーストキャリアを、上手く活用していただけたらと思います。
渡辺さん:
業界や職種の色がまだ着いていない就活生は、人生において最も幅広いキャリアの選択肢を持っています。学生時代を、「社会に出て幸せに活躍するための準備期間」として、ぜひ大切に過ごしてほしいですね。