面接官 「大学での部活は何ですか?」
応募者 「野球部です。」
面接官 「日本で野球の競技人口ってどのくらいいると思う?」
応募者 「〇〇万人位でしょうか。」
面接官 「なぜ、そう思うの?」
応募者 「うーん…。最近あまり人気がなくなっていますので…。」
面接官 「なぜ、人気がないとその位の人数だと思うの?」
応募者 「うーん………。」
第3回 フェルミ推定~解き方と注意点
第3回からは、ケース面接の具体的な解き方を紹介していきましょう。まずは、頻出のフェルミ推定について、解き方と注意点を解説していきます。
フェルミ推定は、面接官との会話の流れの中から出題されることが多いです。うっかり思いつきで回答をしてしまうと、以下のような流れで面接官から「なぜ?」「なぜ?」と聞かれて、答えに窮してしまいます。
これから紹介する3つのステップを踏んで、論理的な回答を目指しましょう。
フェルミ推定 3つのステップ
STEP1:前提の確認
最初のステップは「前提の確認」です。フェルミ推定と聞くと、数式を作成し、数値を当てはめるというイメージが強いかもしれません。もちろん必要なプロセスなのですが、まずは推定をする対象の「範囲」について整理する必要があります。
「範囲」を決めるにあたっては、「言葉の定義」を明確にすることが重要です。日常的に使用される言葉でも、幅広い解釈が出来てしまいます。たとえば上述した「野球の競技人口」というテーマの場合も、「野球」や「競技人口」という言葉について解釈が分かれそうです。前者の「野球」というと、プロ野球のような9人制の硬式野球が浮かびやすいですが、軟式野球もあれば、派生としてソフトボールもあり、場合によってはキャッチボールも野球の一部と捉えられるかもしれません。
ケース面接が出題された際は、必ず「今回の面接ではどの範囲で考えるか」について設定する必要があります。何となく意味が明確そうな言葉の場合でも、念のため定義を整理するようにしましょう。
なお、言葉の定義について、面接官に確認しても問題ありません。ただし、実際の面接においては、面接官に質問しても「設定を含めて自分で考えて欲しい」と言われることもあります。そのため、対策の段階から妥当な定義づけをすることに慣れておきましょう。
実際のプロジェクトでも、言葉の定義がズレているとチーム内の議論が紛糾してしまうことがあります。また、プロジェクトで取り組む範囲の認識について、クライアント企業との間でズレがあると、かなり揉めていわゆる炎上状態に陥ってしまいます。
(戦略ファーム マネージャー 30代前半)
STEP2:立式
数値を求める範囲が定まったので、ここから算出の仕方を検討しましょう。具体的には、テーマとなっている数値がどんな要素で成立しているのかを分解し、数式として組み立てることになります。たとえば、ある商品Aの売上高がテーマであれば、「1商品あたり単価×販売数」と立式するようなイメージです。
立式における代表的な考え方としては「需要ベース」と「供給ベース」があり、どちらを当てはめるか検討することが多くなります。
①需要ベース
世の中の人々、多くの場合は日本人全体のうち、ある商品やサービスをどのくらい欲しているのかを考えるパターンです。「人口×必要としている割合」というのが基本的な式となります。市場規模の推定など、マクロ的な数値がテーマの際に用いられることが多いです。
②供給ベース
キャパシティに限度がある環境において、商品やサービスをどのくらい提供できるかという考え方です。ラーメン屋や寿司屋など、席数が決まっている店舗の売上を求める際などに使用され、「キャパシティ×利用率×回転数」という立式になることが多くなります。
いずれのパターンにおいても重要なのは、分解を1回で終わらせないことです。たとえば商品Aの「販売数」であれば、「全商品の販売数×商品Aのシェア」などと分解できるかもしれません。
分解を1回で終わらせると、数式に当てはまる数値を推定し難くなるので注意しましょう。他方、分解をし過ぎると時間内に検討が終わらない可能性があるので、2~3回程度の分解が良いかと思います。
STEP3:数値の設定・計算
STEP2で作成した数式に、数値を当てはめていきます。この際に、全体を一括りにせず、いくつかのグループに分けて考えることが大切です。
たとえば、「シャンプーの市場規模」がテーマの場合、性別によってシャンプーの使用量や価格帯に差があるでしょう。また、子供と大人など年齢でも差が生じるかもしれません。性別や年齢別に分けたうえで算定すると、より精度の高い結果を得ることができるのではないでしょうか。
このように、フェルミ推定では、ニーズなどが異なる属性ごとにグループを分けて算定することが重要です。これは実際のビジネスでも行われる「セグメンテーション」という考え方に該当します。
また、面接においては、統計データを調べることは出来ないので、すべてその場で推定しなければなりません。特にデータとして存在しない「割合」、たとえば野球の競技人口を求める際に用いる「野球を行う割合」などは設定が難しいでしょう。
推定の仕方としては、これまでの経験をもとに確からしい数値を設定することになります。野球人口のテーマでは、「高校の時にクラスでどのくらいが野球部に所属したか」という記憶をヒントに推定するようなイメージです。
この際に注意すべき点は、「自身の環境が日本全体の平均ではない」ということです。甲子園常連校に在籍していた場合、野球人口の割合はかなり高くなるでしょう。そのため、記憶や経験をもとに推定をした上で、「日本全体に広げても当てはまるか」という検討を行うようにしてください。
フェルミ推定の回答イメージ
ここまで説明した3つのステップを踏まえ、「日本における野球の競技人口」について、回答のイメージをご紹介します。
STEP1:前提の確認
「野球」「競技人口」それぞれの言葉の定義を設定します。まず「野球」について、キャッチボールやバッティングセンターなども含めると細かすぎる印象です。やはり一般的な9人制の試合に絞るのが妥当でしょう。
次に「競技人口」に関して、狭義に解釈をして甲子園など公式な試合に出ている人口を対象とするのもありでしょう。一方で広く捉えて、練習試合や草野球など含めた何らかの試合に、年に数回参加している人口を対象にする形でも問題はなさそうです。
なお、こうした定義において、「誰がその数値を知りたいのか」を設定すると、説得力が増します。たとえば、「野球用品を扱うメーカーがマーケティングのために知りたい」と設定すると、広義に解釈する方が良いでしょう。
STEP2:立式
今回は日本人のうち該当する割合を考えるべきなので、需要ベースで立式を行います。シンプルな式としては「日本人口×野球をプレーする割合」となりますが、このままだと「野球をプレーする割合」の推計が難しいかもしれません。
そこで、さらに分解できないかを考えましょう。たとえば中学生を想定すると、複数の運動部の中で野球部を選ぶはずです。また社会人の場合も、何か運動をしたいと思った時に野球という選択肢が挙がるかと思います。こうした選択を踏まえると、「日本人口×運動を行う割合×野球をプレーする割合」といった分解をすると、数値を想定しやすいかもしれません。
STEP3:数値の設定・計算
野球というテーマでは、部活がある学生と社会人で差が大きそうです。また、性別でもプレーする割合が大きく変わりそうなので、数値設定の前に「年齢×性別」でセグメンテーションを行いましょう。
一方で、たとえば年齢を10歳ごとに80歳まで考え、かつ性別も掛け合わせると、8×2=16のセグメントが出来ます。各セグメントで数値設定・計算をしていては、制限時間内の回答が難しいでしょう。そのため、求めるべきセグメントを絞ることが必要です。
まず性別について、女性が野球を行う割合は、多く見積もっても全体の1割程度だと思われます。この程度の割合であれば対象から省き、男性のみ推計する形で良いでしょう。
また年齢に関して、10歳未満や50歳以上のプレー割合はかなり低そうなので、10代~40代に対象を絞って良さそうです。さらに、30代と40代で大きな割合の差はなさそうなので、まとめて考えて問題ないと思われます。
そこで①10代男性②20代男性③30~40代男性、という3つのセグメントに関して推計を行います。式とセグメントを掛け合わせ、下記のように表形式で整理すると分かりやすくなります。埋まっていない人口・割合をそれぞれ推計し、最終的な野球人口を求めましょう。
合格に向けたポイント
限られた時間の中でいかに検討するか
プレゼンパターンのフェルミ推定では検討時間が5分以下ということが多いので、制限時間を意識して練習をしておくと良いでしょう。
一方でいくら準備をしても、面接本番は緊張もあり、時間が不足することも多くなります。そのような場合は、制限時間内に合わせて無理やり結論を出すよりも、立式やセグメンテーションの検討に時間を使い、「計算結果が出ていない」という状態の方がベターです。無理やり間に合わせるのは、あてずっぽうで回答しているのと変わりません。
ケース面接においては論理性が重視されるので、前提確認や立式を丁寧に行うことを優先しましょう。算出結果が出ていない場合は、その旨を面接官に伝え、ディスカッションをしながら計算していっても問題ありません。
空中戦パターンの場合は、そもそも検討時間がありません。面接官と議論をしながら考えますが、思いつきにならないよう、少しでも考える時間を確保したいところです。「少し整理をさせてください」と伝えて待ってもらうのも、良いでしょう。
それ以外には、「何かを言って時間を稼ぐ」という手もあります。「…という質問ですよね」などと面接官の質問を反復したり、「うーん、そうですねー」など相づちを少し長めにしたりするのも良いでしょう。
(戦略ファーム マネージャー 30代前半)
もちろん、時間内に回答できることがベストではあるので、推定を行う上で「効率化」は図りたいところです。
たとえば、立式においては需要ベース・供給ベースなど、テーマに適したパターンがあるので、「このテーマの場合はどう立式するか」を瞬時に判断できるように練習しておきましょう。
また、「細分化しすぎない」ことも重要です。立式において分解をし過ぎたり、セグメンテーションにおいて細かく分類し過ぎたりすると計算に時間がかかってしまいます。ある程度大きな括りで立式・セグメンテーションを行うことを意識しましょう。
さらに、数値設定に関連して、効率化に向けたポイントをいくつか紹介します。
①丸めた数値を用いる
「計算のしやすさ」を重視し、ある程度丸めた数値を用いることがポイントです。たとえば何かの割合を設定する場合、「23%」と「20%」で大きな差はないので、より計算しやすい数値で設定をすると良いでしょう。
②代表的な統計数値をある程度覚えておく
統計に関する知識が全くないと、数値設定にかなり時間を取られるので、常識的な数値は覚えておきましょう。特に日本に関する数値は優先的に押さえたいところです。中でも日本人口については、フェルミ推定で多用されます。また面積ベースで推計する出題も見られるため、基本的なデータは押さえておきましょう。
- 日本全体の人口、年代別の人口分布、東京都の人口
- 日本の世帯数、平均世帯人数
- 日本の総面積、日本における平地の割合、東京の面積
- 地球の表面積、陸地の割合
③市場の規模感を掴んでおく
主要な業界の市場規模やスポーツの競技人口がどの程度か押さえておくと良いでしょう。フェルミ推定はあくまで概算ではあるものの、計算結果の桁がズレた回答は避けたいところです。ある程度、市場規模などの感覚があれば、時間が無い中でも間違いに気づきやすくなります。業界地図などでチェックしておきましょう。
市場規模の感覚などのビジネス知識については、ファーム入社後も必要です。クライアントとのミーティングにおいて、常識的な感覚が無いと信頼を損ねる可能性があります。ケース面接対策の段階のみならず、入社までのタイミングでもビジネス知識は習得するようにしましょう。
(戦略ファーム コンサルタント 20代後半)
面接官とのディスカッションをどう進めるか
ケース面接では論理的に回答を考えること以上に、面接官とのディスカッションが重視されます。ディスカッションでは、面接官が応募者を厳しく追い込むイメージもあるのではないでしょうか。実際、応募者の論理に抜けがある場合、「他に検討すべき要素はないか」「なぜそのように切り分けたのか」「他に求め方はないか」など、細かく追究されることは多くなります。
一方でディスカッションの目的は、応募者と一緒に回答をブラッシュアップすることだということを忘れないでください。そのため、いかなる指摘においても、粘り強く考え続ける姿勢が何より重要です。
面接官の問いは何かしら漏れがあることを示す「ヒント」であると捉え、指摘内容を真摯に受け止めましょう。それを踏まえてより良い回答になるよう、頭をフル回転して検討することが求められます。
たとえば需要ベースでの立式に対し、「他に求め方はないか」と聞かれた場合、「供給ベースでの求め方はないか」、「需要ベースで他の考え方はないか」を瞬時に整理します。その上で「ご指摘の通り・・・という求め方もあります。改めて考えると・・・の観点から、この求め方ではどうでしょうか」などと返せるよう、議論を積み重ねる意識を常に持ってください。
最後に
今回はフェルミ推定について、基本的な解き方とともに、実際の面接で注意するポイントを整理しました。フェルミ推定には一定の作法があり、また事前にある程度の知識を身に着ける必要があることがお分かりいただけたかのではないでしょうか。まずは正しいやり方を覚え、慣れるために多くの問題を解くことが第一です。
第4回は今回の内容も踏まえた上で、ビジネス系ケースについてのポイントをお伝えします。