第4回 志向と合う仕事を探す「業界研究」
自己分析の後は、志向と合う仕事や志望企業を見つけるために「業界研究」を行ないます。
いざ自分に合う仕事を調べようと思っても、世の中には多種多様な業界があります。さらに、その業界内には無数の企業が存在しています。何から手をつけていいのだろうと悩む方も多いことでしょう。
そこで今回は、志望業界・志望企業を見つけるための「業界研究」の手順を、3つのステップにまとめて、わかりやすく解説します。
なぜ、業界研究が必要なのか?
業界研究とは、世の中にあるさまざまな業界の存在を知り、その特徴や仕事内容を把握することです。
既に関心のある業界だけではなく、あまり知らなかった業界にまで視野を広げることで、新たに興味を持てる業界と出会う可能性もあります。また、業界の特徴をよく理解していれば、面接で志望理由を伝える際にも説得力が増すでしょう。
業界研究の目的を端的に表すと、以下の4つに分けられます。
1. 視野を広げて、新たな選択肢を見つけるため
「世の中に価値あるコンテンツを届けたいから、志望業界は出版・新聞業界だ」といったように、いきなり志望業界を絞ってしまう人が時々います。
その場合、確かに出版・新聞業界も有力な選択肢の一つとなるでしょう。しかし、「価値あるコンテンツを広く届けたい」ということであれば、Webメディアや動画配信サービスなどを展開する「IT・デジタル業界」、TVやラジオなどの「放送業界」も候補になるかもしれません。あるいは、専門的な知見をもとに発信をする「シンクタンク業界」や「教育業界」なども面白いかもしれません。
興味のある業界をきっかけに、つながりのある業界を調べることで、これまで存在を知らなかった仕事に興味が湧くということも、珍しくないのです。業界研究では、視野を広げることを意識して、まずは「どのような業界が存在するのか」を把握することから、スタートしてみましょう。
2. 志望業界を適切に決めるため
各社の選考時期が重なることもあり、エントリーをして受けられる企業の数は、それほど多くはありません。そのため、あらかじめ業界研究をして、自分とフィットする志望業界を選定しておくことはとても大切です。十分な研究をしないまま応募先を決めてしまい、選考が進む中で違ったと気づいても、軌道修正が間に合わないこともあります。
また、志望業界の仕事内容を正しく理解しておくことは、入社後のミスマッチを防ぐためにも必要なことです。
3. 志望業界から志望企業の候補を見つけるため
当然のことですが、一つの業界内にはたくさんの企業が存在します。その中から、自分に合う企業を見つけるためにも、業界研究は欠かせません。
たとえば、「メーカー」とひとくちに言っても、ソニーやパナソニックなどの電機メーカーもあれば、資生堂、花王、P&Gなどの消費財メーカーもあります。さらには、トヨタ、ホンダ、日産などの自動車業界もあるでしょう。
さらに、「自動車業界」にも、完成車をつくる自動車メーカーだけでなく、数多くの自動車部品メーカーがあります。自動車部品メーカーには、デンソーやアイシンなどの売上高数兆円を誇る、日本を代表するような優良企業も存在しているのです。
このように、一つの業界内にもさまざまな分野があり、優良企業がいくつもあります。自分に合う企業を見逃さないように、業界研究をしっかりと行いましょう。
4. 志望動機、自己PRに説得力を持たせるため
応募書類や面接では、「志望動機」や「自己PR」が問われます。多くの企業の選考では、この2点が主要な評価ポイントとなるでしょう。
しかし、その業界の仕事内容を十分に理解できていないと、地に足のついた志望動機を話すことはできませんし、アピールすべき適性や能力も分かりません。説得力のある回答をするためにも、業界研究を通じて仕事内容を深く理解しておくことが不可欠なのです。
業界研究の方法
業界研究は、次に説明する3つのステップで行なっていきます。
ステップ1:「気になる業界」を広くピックアップする
まずは、自己分析で把握した「キャリアの軸」をもとに、興味のある業界を幅広くピックアップします。
このとき、できるだけ多くの業界を見てみることが大切です。たとえば「人々の健康に貢献したい」というキャリアの軸がある場合、医療業界はもちろん、製薬業界や医療機器を扱うメーカー、ヘルスケア業界も考えられます。
また、近年はIT業界のなかにも、「ヘルステック」とよばれるデジタル技術を用いて医療サービスを行う企業も出てきています。さらに、人々が健康的に働ける会社を増やしたいということであれば、「組織人事コンサル業界」「人材開発業界」もフィットするかもしれません。
この段階では、さまざまな業界を俯瞰するために、書籍を活用することをおすすめします。以下のような書籍に目を通し、ピンとくる業界があれば付箋を貼り、ピックアップしましょう。
さまざまな業界について広く知るなら、「業界地図本」といわれる次の2冊が役に立ちます。
- 『会社四季報 業界地図』(東洋経済新報社)
- 『日経業界地図』(日本経済新聞社)
また、自分の好きなことを軸に業界や仕事をイメージするには、次の2冊のような「仕事図鑑系」の書籍が役に立ちます。
- 『JobPicks 未来が描ける仕事図鑑』(ニューズピックス)
- 『未来が広がる! 世の中が見える! 仕事の図鑑』(ナツメ社)
もちろん、インターネットで情報を集めることもできます。しかし、さまざまな業界を比較検討するのにはあまり向いていません。情報が細切れで過不足があったり、表示すると図が小さくなったり、複数のページに情報が分散していたりと、一覧性という点で劣るからです。その点、情報が整理されており、ひと目で業界全体が見渡せる図が載っている書籍は、業界研究に最も適しているツールといえるでしょう。
ステップ2:仕事内容を理解して「志望業界」を選ぶ
次に、ピックアップした業界について深く掘り下げていき、志望業界を選びます。
具体的には、各業界の仕事が、自分のキャリアの軸とフィットしているのかを確認していきます。もちろん、ステップ1で把握したような、業界のおおまかなイメージだけでは判断ができません。この段階では、業界の商品やサービス、顧客、収益を上げている方法など、具体的な仕事内容を理解しておく必要があります。
そのためには以下のような、特定業界を掘り下げた「業界研究本」が役立ちます。
- 「業界大研究シリーズ」(産学社)
- 「図解入門業界研究シリーズ」(秀和システム)
また、インターネットでの情報収集も有用です。インターネットでその業界で働いている人のインタビュー記事を読むと、仕事内容を詳しく知ることができます。
特に関心を持った業界については、その業界を扱ったビジネス小説や漫画、ドラマを活用して、理解をさらに深めていくのも良いでしょう。書籍やドラマを通じて、社会人としての指針となるロールモデルを見つけることもあります。
このようにして仕事内容を理解し、自分のキャリアの軸と照らし合わせると、志望業界が明確になっていきます。
ステップ2を一通り終える頃には、その業界で働くことの醍醐味、顧客に貢献する喜び、一筋縄ではいかない苦労なども理解できてくると思います。このようなプロセスを経て、社会で働くことへのモチベーションも高まってくることでしょう。
ステップ3:志望業界内の企業を把握して「志望企業の候補」を選ぶ
志望業界が決まったら、その業界内にどのような企業があるのかを把握して、志望企業の候補を選びます。あくまで「候補」ですので、この段階では、緩やかに、広めにピックアップしましょう。
業界の最大手企業が自分にフィットするとは限りません。まずは、業界内にどのような企業があるのかを知ることが大切です。業界研究本やインターネット情報などを読むことで、企業ごとの特色や社風、ポジショニングが見えてきます。企業規模が小さくても、自分の志向にピッタリと合う企業が見つかることも珍しくありません。
なお、ステップ3を経て選んだ企業は、いわゆる「第1志望群」や「第2志望群」となる、志望度が高い企業群となります。これらの志望度が高い企業で内定を得るためには、面接に慣れておくことが大切です。そのため実際の選考においては、やや志望度が下がる企業も含めて、幅広く応募しておくことをおすすめします。
就きたい職種が決まっているなら「職種別採用」を受けよう
ここまで、日本で主流の「総合職採用」を前提に解説を進めてきました。総合職採用とは、将来的にその企業の中核となる人材を育成するため、さまざまな部署の仕事を経験させることを前提とする採用方式のことです。
しかし自己分析の結果、人事職や経理職、マーケティング職など、就きたい職種がはっきりと決まっている人もいるかもしれません。その場合、業界研究の重要度はやや下がり、決まった職種での採用を行う「職種別採用」や「ジョブ型採用」をしている企業を中心に検討していくことになります。
ただし、新卒で職種別採用をしている企業は、あまり多くはありません。そのため、業界についてはやや幅広く検討したほうが良いでしょう。例年、職種別採用があるのは、一部の外資系企業や弁護士事務所、会計事務所、投資銀行、コンサルティングファームなどの「プロフェッショナルファーム」とよばれる企業となります。昨今、コンサル業界の人気が高まっている背景には、自分の望む専門性を高めることができるという理由もあるのです。
たとえば、人事職に関心がある場合であれば、職種別採用を行っているP&Gのような外資系事業会社の人事職や組織人事系コンサルティングファーム、リーダーシップ開発を行う研修企業などが候補に挙がるでしょう。
なお、中途採用では職種別の採用が中心となります。そのため、目指す職種が決まっていたとしても、新卒時にはあえて異なる仕事に就き、転職時に本命の職種に就くというキャリア形成の方法もあります。
一例をあげると、新卒で戦略系コンサルに入社してスキルを身に着けたのちに、事業会社のマーケティング職の幹部として転職するといったような方法です。このように、さまざまなキャリア形成のパターンを知っておくと、自分が望む将来像を実現しやすくなります。
まとめ
業界研究は、志望する業界・企業を選ぶのに欠かせないプロセスです。しかし、業界地図本を広げると、多種多様な業界が存在することを知り、驚く方も多いことでしょう。
しかし、自分のキャリアの軸を掴んでいれば、無数の業界の中から候補となる仕事を選定することができます。充実した社会人生活を送るために、しっかりと業界研究を行ない、よりよい選択ができるようにしていきましょう。